経理担当の会社員ヨシカ(松岡茉優)は、中学生の同級生イチ(北村匠海)に10年間片思いをしている。ある日、同僚の「ニ」(渡辺大知)に告白された。2人の彼氏が(1人は脳内だけど)いる!と浮き立つが、今のイチへの思いが募り、四苦八苦して同窓会を企画。念願のイチとの再会を果たすが。原作は綿矢りさ。監督・脚本は大九明子。
 本作、果たして原作はどのようなテンションの文体なのかとても気になった。映画は概ねヨシカの語り(というか妄想)なのだが、彼女がナレーションをするのではなく、脳内からあふれ出る言葉がどんどん音声化されてくる感じ。彼女が隣人や公園やバスの中で行きあわせた人と交わす会話は、彼女の脳内で繰り広げられているもの。しかし彼女の言葉が饒舌すぎて、これは果たして脳内に収まり続けているのだろうか、うっかり声に出してない?大丈夫?と気になってくる。脳内のものであれ実際に声に出した会話であれ、ヨシカの言葉であることには違いないので、段々彼女の脳内と現実がシームレスに感じられてくるのだ。えっこれ本当に言っちゃってたんだ!とびっくりしたところも。このあたりは、ヨシカが自分をコントロールできなくなってきているということだろう。どのように語るのかという演出の部分が、時に力技だが映画を見ている側へ突き抜けてくるような勢いがあり、とても面白かった。
 ヨシカは自分に自信がないようでいて妙な所のプライドが高い。ああーこういうのわかる・・・自分にもある・・・自己評価下げているようで実は据え置きにしている嫌な感じのやつね~となかなか見ていてぐさりとくる所もあった。彼女の片思いは、実在の同級生に対するものというよりも、彼女の頭の中の同級生に対するもので、ほぼ自己完結していると言ってもいい。ヨシカは再会したイチのある言葉にいたく傷つくのだが、そこにいる人を見ていなかったという意味では、彼もヨシカもどっちもどっちで、お互いにすれ違っているのだ。
 本作内の(男女間に限らず)コミュニケーションは、往々にしてすれ違いになりがち。ただ、すれ違うというのはお互い様で、すれ違ってしまったことについてそんなに相手を責めるべきではないだろう。少なくともすれ違いなんだから、あとちょっとずれていたらちゃんとぶつかったわけだし。すれ違ってもすれ違っても軌道修正しようとするニのタフさと「野蛮」さが、鬱陶しくも少々羨ましくなってくる。

勝手にふるえてろ (文春文庫)
綿矢 りさ
文藝春秋
2012-08-03



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