トーヴェ・アルステルダール著、久山葉子訳
 フリージャーナリストのパトリック・コーンウェルから連絡が途絶え、10日あまりが過ぎた。妻のアリーナは、夫が自宅に郵送してきた手帖と写真を手がかりに、彼を探す為にニューヨークからパリへ飛ぶ。パトリックは海を渡ってくる不法移民問題を取材していたらしい。彼の足跡を追うアリーナは、大きな闇と対峙していく。
 アリーナは舞台美術監督で、記者の仕事とは縁がなかった。そんな彼女が手さぐりで闇の中を進んでいく。彼女の道もまた、パトリック同様に引き返せないものになっていくのだ。パリで垣間見るのは安い労働力として使い捨てにされる不法移民たちの境遇と、それを食い物にする「奴隷商人」たちの姿だ。日本でも近年同じような問題が表面化しているが、本作のそれは更に大規模なもの。アリーナの身にも危険が迫りスリリングな展開で読ませる。
 社会問題を描く意図はあるものの、アリーナ個人の事情から軸足がぶれず、読みやすい。彼女の過去に関する情報の挿入の仕方など、読者からしたらちょっと反則的ではあるのだが当人からしてみたら当たり前のことだから、こういう書き方になるよなと納得はできる。彼女が過去に培ってきた(そして封印していた)ものがどんどん前面に出てい来る物語とも言える。そして書き方と言えば、一か所あっと思った所があった。これは著者が意図的に仕組んでいるのだろうが、自分の中の自覚のない先入観や偏見があぶりだされる。

海岸の女たち (創元推理文庫)
トーヴェ・アルステルダール
東京創元社
2017-04-28


リガの犬たち (創元推理文庫)
ヘニング マンケル
東京創元社
2003-04-12