キンシャサに暮らすフェリシテ(ヴェロ・ツァンダ・ベヤ)はバーで歌って生計を立て、息子サモと2人で暮らしている。バーの常連で修理屋のタブーは彼女に気があり、何かと声をかけてくる。ある日、サモが交通事故に遭い、手術を受けるための費用が必要になった。フェリシテは金策に奔走するが、惨酷な知らせが彼女を待っていた。監督はアラン・ゴミス。
 カサイ・オールスターズによる音楽が素晴らしい。いわゆる美声というわけではない、特に叫ぶようなフェリシテの歌声は、この音楽に乗ると実に表情豊かで力強い。フェリシテはほぼ全編にわたって苦労の連続で、表情は硬く(無表情に味がある)、内面をたやすくは見せない。しかし歌う時だけは幸福感に満ち、エネルギーに包まれる。そんな彼女が歌えなくなる時、どれほど疲労し絶望が深いのかと痛感させられるのだ。
 金策に走り回る話というと、今年見た映画では『ローサは密告された』(ブリランテ・メンドーサ監督)を思い出した。『ローサ~』では保釈金の為にローサと家族が奔走するが、本作では息子の治療費の為にフェリシテが奔走する。警察も政府も腐敗しており最早アンタッチャブルな世界に突入している『ローサ~』に比べると、本作の方が貧しいながらもまだ殺伐としきってはいないように見える。とは言えお金のことを考え続けるのは心身が削られるものだ。彼女が「ボス」の家に押しかけた際の「私は物乞いじゃない」という言葉は、負け惜しみというよりも彼女にとっては正当性があると考えてのことだろうが、それでも(物理的にも)ボロボロになる。それでもやらざるを得ないというのが辛い。
 しかしそんな中でも、「わたしは幸福」と言えるであろう瞬間が訪れる。前述のように音楽に裏打ちされたシーンはもちろんなのだが、日常のちょっとしたことで、日が差し込むような気持ちになるのだ。無表情だったサモがある瞬間に見せる表情がすばらしかった。タブーの立ち振る舞いが引き出したものだが、彼の2人への関わり方がつかず離れず、でも諦めずといった感じで良かった。2人をサポートするが強権的ではないのだ。

ローサは密告された [DVD]
ジャクリン・ホセ
ポニーキャニオン
2018-03-02