イスタンブールからイギリスに戻る為、オリエント急行に乗った名探偵エルキュール・ポワロ(ケネス・ブラナー)。しかし途中で脱線事故が起きて足止め状態になり、更に車内でアメリカ人富豪ラチェット(ジョニー・デップ)が刺殺されているのが発見された。ポワロは鉄道会社の重役ブーク(トム・ベイトマン)の依頼を受け、殺人事件の犯人探しを始める。原作はアガサ・クリスティの同名小説。監督はケネス・ブラナー。
 過去、映画やTVドラマとして度々映像化されている作品だし、原作の人気も高いので、自分がイメージしていたのと違う!という観客も多そうだが、私は楽しく見た。ブラナーのポワロは神経質さや独特の几帳面さをより色濃くした、少々仰々しい造形。ポワロだけでなく作品自体がドヤ顔かましているような印象なのだが、ブラナーが主演・監督兼ねているからまあしょうがないかな。私はブラナー監督作の舞台劇っぽさというか、独特のオーバーアクションな演出・演技が少々苦手なのだが、本作は作風と非日常的な物語・舞台との相性がよかったのではないか。『オリエント急行~』って、クリスティ作品の中でも特にイベント性が高い、「お芝居」的な要素の強い作品だと思う。
 原作の尺との兼ね合いがあるのでしょうがないのだろうが、ポワロが超推理を展開しているように見えてしまう。手がかりから結論へ飛躍しすぎな印象になるのだ。とは言え、ミステリとしての筋書きそのものよりも(私が原作既読だからというのもあるが)、列車内での殺人という限られた空間内でのドラマを、どのようにビジュアルの変化を盛り込み、単調ではなく見せるかという創意工夫が面白く感じられた。見取り図のように真上から撮影したり、ポワロ自ら列車の外へ飛び出て原作からは想像できないようなアクションを見せたりと、見た目のバリエーションを付けようと言う意欲が色々感じられた。
また、セットや衣装等美術面が大変豪華で、それだけでも楽しい。
 冒頭、イスラエルでの謎解きの経緯や、ポワロの「世の中には善と悪しかない」という言葉をはじめ、ポワロはこういう考え方をする人であり、彼の言う正義とはこういうものだと紹介するような作品だったと思う。殺人事件の決着のつけ方自体、ポワロの正義感と善悪観を如実に反映したものになっている。ポワロ入門編と言ってもいいかもしれない作品。当然シリーズ化したいんだろうなぁ。



オリエント急行殺人事件 スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]
アルバート・フィニー
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
2013-08-23