魔法の三味線の音色で折り紙を操る片目の少年クボ(アート・パーキンソン)は、病んだ母とひっそりと暮らしていた。母は、祖父である月の帝(レイフ・ファインズ)がクボの片目を奪い、もう片方の目も奪う為に探し続けていると言う。ある日、母の言いつけを破り日が暮れても家に戻らなかったクボは、魔力を持つ伯母たち(ルーニー・マーラ)に見つかってしまう。監督はトラビス・ナイト。
 両親を亡くした少年が、自分の出自の秘密を知る為に旅に出るという王道の冒険ファンタジー。制作は『コララインとボタンの魔女』等を手掛けたアニメーションスタジオ・ライカ。緻密なストップモーションアニメの凄みを見せてくれる。キャラクターの質感や、風景の作りこみ(海の波の表現が素晴らしい)には唸るしかない。あまりに動きがスムーズで緻密なので、果たしてこれをストップモーションアニメでやる必要があるのか?むしろストップモーションとしての面白みが削がれているのでは?という疑問が沸くくらい。技術的に素晴らしいのはすごくよくわかるのだが、なぜこの技術でこの作品を作るのかという部分でひっかかってしまった。折り紙の味わいとかは人形アニメーションならではかもしれないが・・・。
 ストーリーの展開は割と単調、かつ伏線の使い方がぎこちなく、少々退屈だった。アニメーション技法を鑑賞するには複雑なストーリーではない方がいいのかもしれないけど、クボの目の秘密にしろ、月の帝が結局何をしたかったのかにしろ、曖昧なままだったように思う(途中ちょっとうとうとしてしまったので、ちゃんと説明されていたならごめんなさい・・・)。ストーリー的にすごくいい部分もあるので中途半端な伏線の使い方がもったいない。物語をもって自分を理解する、他者を助ける(皆で「彼」に物語をわけてあげるのちょっとすごいと思った)という部分にもっと寄せていってもよかったんじゃないかなぁ。比較的シンプルな話なのに妙に整理されていない印象を受けた。
 冒険物語でありつつ、哀愁が漂う。「お供」として彼を助けるサル(シャーリーズ・セロン)とクワガタ(マシュー・マコノヒー)の正体には泣かせられる。それでもなお、という去っていかざるを得なかった人たちの気持ちが染みてくるのだ。そして彼らがいたこと、彼らに愛されたことの記憶こそがクボを助けることになる。