ケン・リュウ著、古沢嘉通他訳
 不治の病にかかった母は、できるだけ長い間娘を見守る為ある選択をするが、それは娘と母とを隔てていくものでもあった。表題作を始め、ケン・リュウ版『羆嵐』とでもいうべき(しかし更にひねりのある)『烏蘇里羆』、疑史小説であり歴史の語り直しのような『草を結びて環を銜えん』『訴訟王と猿の王』『万味調和 軍神関羽のアメリカでの物語』、SFハードボイルド『レギュラー』(かっこいい!)、SFネタとして王道な『シミュラクラ』『パーフェクト・マッチ』など、16篇を収録した短編集。
 実に多作!短編を量産する一方で長編もばんばん書いてるもんなー。本作では表題作が短いながらもやはり印象深い。親が先に死ぬというのは自然なことではあるが、その一方でいつまでも若々しく元気な姿でいてほしい、自分より先に死んでほしくないという気持ちが(私には)ある。なのでこの作品の母親の行為は愛として受け止められるけど、これが気持ち悪い、非常に違和感を感じるという人も絶対いると思う。その気持ち悪さ、違和感を逆に前面に出したのが『シミュラクラ』だろう。愛故の行為が親と子を逆に隔てていく。親と子、世代と世代の狭間を描く作品が印象に残る短編集だった。そういった作品や時代小説的なものとは一風違うが、最後に収録された『『輸送年報』より「長距離貨物輸送飛行船」』が一番好き。大きなドラマがあるわけでもなく、飛行船とその内部、そして操縦士夫婦の生活描写に終始しているのだが、人と人との普遍的な関わりに言及されている。機械の細部の描写も魅力。