ジーン・ウルフ著、酒井昭伸訳
生前の作家の脳をスキャンし、リクローン(複生体)にした“蔵者”が図書館に収蔵されている世界。蔵者の一人である推理作家E・A・スミス(のリクローン)の元を、コレット・コールドブルックと名乗る女性が訪ねてくる。父親に続いて兄を失くした彼女は、兄にスミスの著作である『火星の殺人』を手渡されていた。この本が兄の不審死の謎を解く鍵になるのではと考え、コレットはスミスを借り出す。しかし2人は何者かに狙われていた。
人間(リクローンとは言え)がいわば生きた本となっている未来の世界。生きる著者(のコピー)に会えるなんて面白いかも・・・とちょっと思ったが冷静に考えると結構ひどいシステムだ。リクローンたちは「純正の人間」と同じような意識を持ち肉体的にも人間と変わらない。しかし図書館からの無断外出は禁じられ、貨幣も持たず、作家としての意識はあるのに著述は禁じられている。これって非人道的だよな・・・(ウルフの作品て、さらっと非人道的なシチュエーションが挿入されるよな)。更に、彼らが生きる世界(純正の人間の世界)のディストピアな様相も垣間見えてくる。人口自体が減り、人類が無気力に傾きつつあるようなのだ。そんな世界を変えるかもしれない火種を掴みつつ、スミスが最終的に着地するのが「探偵」であるところが渋い。彼が意図するのは、「彼女」の物語を完結させることであったとも言える。そういう意味では、リクローンであれ彼は作家なのだ。

書架の探偵 (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

ナイト I (ウィザード・ナイト)
ジーン・ウルフ
国書刊行会
2015-11-13