フランス南部の村に住むガブリエル(マリオン・コティヤール)は、愛を乞うあまりエキセントリックな言動に走り、村では噂になっていた。母親は彼女をスペインから来た労働者・ジョゼ(アレックス・ブレンデミュール)を結婚させる。しかしガブリエルはジョゼに「あなたを愛することはない」と告げる。腎臓結石の治療の為に療養所に入ったガブリエルは、そこで帰還兵アンドレ(ルイ・ガレル)と出会い恋に落ちる。原作はミレーナ・アグスの小説『祖母の手帖』。監督はニコール・ガルシア。
 原作は、孫が祖母=ガブリエルの手記を読んで彼女の過去を紐解くという構成だったのだが、手記=ガブリエルの一人称ゆえに、その内容はあくまで主観によるもの、「信用できない語り手」によるものだ。この足元の不確かさ、あいまいさが作品に奥行きを与えていた。真相らしきものが現れても、どこか胡散臭さが残るところが魅力なのだ。しかし映画化された本作は、その語りのあいまいさが失われてしまった様に思う。そもそも映像での一人称演出は難しいので、見せ方としては本作のやり方で問題ないのだが、最後の「種明かし」的な部分が唐突だし、明瞭すぎるのだ。これだと、「ようやく目が覚め真実の愛に気付きました。めでたしめでたし」って感じだ。でも、本作はそういう作品ではないはずだと思う。
 人は主観でしか生きられず、どのような愛がその人にとって適性なのか、選ぶのは本人でしかない。それが周囲からは狂っているように見られても、そうあるしかないという人は確実にいるのだ。ジョゼは客観的には良き夫であり、ガブリエルに尽くしていることがわかる。だがガブリエルが求めるのはそういうものではない。彼女の生活がジョゼに支えられているとか、ジョゼは彼女のことを愛しているだろうとか、そういうことはわかっていても、どうしようもない。一見、長年連れ添いジョゼとガブリエルの間に愛が生まれたようにも見えるんだけど、多分、ガブリエルにとっては愛とはちょっと違うんだろうな。
 原作読者としてはいまひとつな部分がある映画化だったが、人と人の距離感の見せ方には映像ならではの面白さがあった。特に冒頭、運転中のジョゼが息子(ある事情によりひどく緊張している)に対して見せる振る舞いは、父子の親密さを感じさせるものだ。ガブリエルも同乗しているが、今一つ息子の様子を察していない。夫や息子に対してどこか上の空な感じ。独身時代のガブリエルと両親妹との関係も、食卓のシーンで端的にわかる。



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2013-08-02