三浦しをん著
 まほろ市で便利屋を営む多田の元に、高校の同級生・行天が転がり込んで同居生活もはや3年目。地域密着型の便利屋として営業を続ける多田便利軒は、親族の見舞い代行やバスの運行チェック等も相変わらず引き受けている。ある日、行天の元妻が、2人の間に生まれた実の子を便利屋として預かってほしいと依頼に来る。
 シリーズ3作目にして完結編。同題名で映画化もされた(お勧めです)。今回は、行天がなぜ過去を一切口にしないのか、家族と疎遠なのか、子供を忌避するのか、その行動の根っこにある部分が明かされる。多田も行天も家族にまつわる傷を持つが、それぞれ形は違う。その傷を理解できる、共感できる等ということは言わない所が、2人の距離感のある種の折り目正しさを感じさせる(実際の言動はお互い失礼なことばっかりだけど・・・)。多田が行天に対して言えるのは、お前は大丈夫だ、お前を信じているんだということだ。本シリーズ、ユーモラスな中にも苦さ寂しさが滲むのは、過去の変えられなさが常にまとわりつくところにあるだろう。しかし同時に、過去は変えられないが傷は痕が残るとしても塞がる、人生やり直しは出来ないかもしれないが仕切り直しは出来る。行先がほのかに明るいのだ。はるという、問答無用で前を向いている幼い子供の存在にひっぱられてのことであるのはもちろん、これまでのシリーズで登場した人たちがそれなりに、あるいは何となく元気に生きている、その中に多田も行天もいるのだという時間の積み重ねによるところが大きいように思う。

まほろ駅前狂騒曲 (文春文庫)
三浦 しをん
文藝春秋
2017-09-05


まほろ駅前狂騒曲 DVD通常版
瑛太
ポニーキャニオン
2015-04-15