ビル・ビバリー著、熊谷千寿訳
 15歳の少年イーストは、ロサンゼルスの犯罪組織に所属し、麻薬斡旋所の見張り役をしていた。しかし警察が踏み込んできたことで、組織は複数の斡旋所やねぐらを捨てざるを得なくなる。イーストは責任を取る形で、ボスからある任務を命じられる。元大学生のウィルソン、コンピューターに精通した17歳のウォルター、そしてイーストの異父弟で13歳のタイと車でウィスコンシン州へ行き、ある人物を殺すのだ。英国推理作家協会賞最優秀長篇賞受賞作。他にも複数の賞を連続受賞しているがこれがデビュー作だというからすごい。
 今年読んだ翻訳ミステリの中では、もしかしたらベストかもしれない。賞総なめというのも納得。クライムミステリであり、2000マイルに及ぶロードノベルであり、少年の成長物語でもある。イーストの仲間3人は計画を遂行するために集められたメンバーにすぎず、経験豊富というわけでもない。イーストも言動は大人びているがやはり15歳、しかもこれまでの体験の範囲がかなり限られている15歳にすぎない。仲間とのコミュニケーションの取り方や反りが合わないタイに対する怒り等からは、彼が世の中に対してまだ不慣れである様、如才なさとは程遠い様が見て取れる。自分をコントロールできる部分と、できない部分の落差が痛々しくもあった。彼はそもそも、ロサンゼルスの自分が「見張る」エリアから出たこともないのだ。旅の過程で物理的に世界が広がっていく様と、イーストの内的な世界が初めての経験を経て広がっていく様が重なっていく。あったかもしれない、もう一つの「普通」の人としての生活を体験していくのだ。イーストがある夫婦のディナーに招かれた時、これがいわゆる家庭というやつなんだなと新鮮に驚く(というか学習する)シーンが強く印象に残った。つまり、彼はこういう普通さとは無縁だったんだなと。イーストは何度か大きな決断をし、自分の人生の方向を変えていく。最後の選択の先に広がる景色は、きっともっと広いはずだ。




プリズン・ガール (ハーパーBOOKS)
LS ホーカー
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2017-05-17