14歳のマイク(トリスタン・ゲーベル)は同級生からは変人扱いされ、母親はアルコール依存症、父親は浮気中で、悩みが尽きない。ある日、ロシアからの移民だという転校生チック(アナンド・バトビレグ・チョローンパータル)と出会う。2人は夏休みを利用し、古びた車に乗って旅に出る。原作はヴォルフガング・ヘルンドルフ『14歳、ぼくらの疾走』。監督はファティ・アキン。
 2輪車二人乗りシーンがある映画は当たり率が高いというのが持論なのだが、本作も該当した。マイクとチックではなく、マイクと母親の2人乗りなのだが。いいシーンではあるが、背景を考えるとなかなか辛いものがある。一見微笑ましいけど、酔いつぶれた母親を回収しての2人乗りなのだ。マイクの母親はアルコール依存症で治療の為施設に入らなければならないくらいなのだが、マイクは母親のことを疎んではおらず、父親よりは心が通じ合っている。マイクにとっては(困ってはいるが)ユニークで楽しい母親ではある。だからこそ、2人乗りシーンが切ない。親のことは子供にはどうしようもないのだ。マイクの父親は父親で、若い女性と浮気していることを息子に隠そうともしない。せめて見えない所で手繋げよ!
 チックはチックで結構大変な暮らしをしていた雰囲気がある(だから運転やら何やら、自分で出来るようになったんだろうし)が、彼の背景については殆ど言及されない。あくまで、マイクにとっての不可思議であり憧れでもある親友・チックとして存在する。エンドロールのアニメーションは正にマイクにとってのチックなのだろうし、映画を観ている側も、こうであれ!と願わずにはいられない。2人は無謀だが、世の中のあれこれを知らない故の勢いや強さがある。なんだかんだ言って自分たちでなんでもやろうとする、創意工夫があるところも楽しかった。
 2人の旅は、大人びたチックに連れまわされ、マイクが解放されていくように見える。しかし、チックもまた解放されていったのだろう。マイクと一緒の時は10代の少年としてバカ騒ぎできるし、突っ張らずにいられる。終盤、ある告白をするのも、ここでは素を出していいと安心できたからだろう。
 旅によって、彼らの人生で何かが解決したわけではないし、何かが好転するわけでもない。しかし、自分たちはこの先も大丈夫なんじゃないかと2人は思えたのではないか。少なくとも、今いる場所だけが世界ではなく、世界にはもっと広がりがあることが垣間見えたのだ。

消えた声が、その名を呼ぶ [DVD]
タハール・ラヒム
Happinet(SB)(D)
2016-07-02


グッバイ、サマー [Blu-ray]
アンジュ・ダルジャン
Happinet
2017-04-04