長らく戦争が続くとある村。牛乳配達人のコスタ(エミール・クストリッツァ)はミルク売りの娘ミレナ(スロボダ・ミチャロヴィッチ)に想いを寄せられていた。ミレナは兵士である兄ジャガ(プレドラグ・”ミキ”・マノイロヴィッチ)が帰郷したら兄と一緒に自分とコスタも結婚式を挙げようと計画していた。しかしコスタはジャガの花嫁として迎えられらたイタリア人女性(モニカ・ベルッチ)に恋をしてしまう。監督・脚本はエミール・クストリッツァ。
 クストリッツァ監督作品はペシミスティックな躁状態とでも言うような、独特のテンションがあって大変賑やかで騒々しいが悲劇の予兆を常にはらんでいる印象がある。本作では、コスタが美女2人にモテモテだったり、戦争に慣れきった村の兵士たちが妙に呑気だったり、クストリッツァ作品お馴染みの動物たち大活躍だったり、コメディっぽい要素がふんだんにある。一方で、コスタと花嫁の逃避行は困難極まりないし、理不尽としか言いようがない形で突然大勢が(人間動物分け隔てなく)死ぬ。えっ、この人たちこんなにあっさりと退場しちゃうの?とびっくりするくらいだ。
 そんな理不尽な暴力とファンタジーの世界との間を疾走していくような力技。滝を飛び下りるシーンや雷雨の中の浮遊など、ファンタジーとして本当に美しいのだが、その薄皮一枚向こうには生々しい戦場が広がっている。終盤のある悲劇は、正にこの世の悲惨さとそれを覆うファンタジーのベールの組み合わせとして描かれている。こうでもしないと浮かばれない、とでも言うようだ。
 コスタと花嫁を助けてくれるのは、動物や鳥や虫で、人間は全く手助けしてくれない。人間たちはむしろ2人を引き離そうとするのだ。人間に対する信頼感があまりない世界なのだ。コスタは世捨て人のような存在で、むしろ動物たちに近いのだろう(熊と親しげに接するシーンが印象的だ)。だから、生々しく人間としての生気や欲望を放つミレナとは一緒になれないのだ。花嫁は世捨て人というわけではないが、国も家族も捨てざるを得なかった難民のようなもので、この世にはやはり居場所がないのだ。この世に居場所がない人たちの行き着く先はこれしかないのか、とラストにはやるせない気分にさせられる。

アンダーグラウンド Blu-ray
ミキ・マノイロヴィチ
紀伊國屋書店
2012-04-28


夫婦の中のよそもの
エミール・クストリッツァ
集英社
2017-06-05