弁護士の重盛(福山雅治)は、殺人前科があり、勤務先の社長を殺したという新たな容疑がかかっている三隅(役所広司)の弁護を担当することになる。社長を殺害後、火をつけたと三隅は自供しており、このままでは死刑は免れないが、動機は曖昧なままだった。重盛は面会と調査を重ねるが、三隅の自供は二転三転していく。監督・脚本は是枝裕和。
 是枝監督は、主語が大きい話を描くのは苦手なんじゃないかなと思った。本作の主人公は重盛だと言っていいし、重要人物はもちろん三隅と言えるだろう。しかし、重盛という個人、三隅という個人の物語になっているかというと、ちょっと違うのではないかと思った。彼らはある思想、観念を表現するための道具であり、手足の代わりのようなものなのではないだろうか。そのせいか、台詞は紋切型が目立ち、「こういう人」というバックグラウンドや人間のディティールには、他の是枝監督作に比べて少々乏しいように思った。会話シーンは概ね退屈なのだが、その中で面白いと思った部分は、重盛と元裁判官である父親のやりとり。距離と不躾さとが混在している感じに、ああ老年の父親と成人した息子のやりとりってこんな感じだろうなという説得力がある。是枝監督の良さ、得意なものは、こういうディティールの部分にあるのだろう。
 本作では真実が曖昧であること、そして司法のシステムの(外部から見た際の)奇妙さが描かれる。真実の曖昧さについては、ご丁寧に「盲人と象」の例えが持ち出され、そういう所はやたらとわかりやすくするんだ・・・とちょっとおかしくなってしまった。しかし、三隅の真実を追求するという部分と、司法システムの奇妙さ・限界を見せる部分とが、一つの映画として意外と噛み合っていないように思った。三隅を巡る部分は多分に不条理劇のようなのだが、司法の不条理とは質が違う。司法の不条理は、物事を処理していく上での合理性が逆に司法の本来の目的から逸れていくという所にあるのだろう。原因がまあわかっていると言える。しかし、三隅の不条理さはそれとは違う。そもそも原因などわからない類のものだ。この2種の不条理さを一緒にしたことで、何とも座りの悪い作品になっているように思った。意図した座りの悪さ(「藪の中」的な座りの悪さは意図したものだろう)ではなく、監督の意図しない部分での噛み合っていなさなのではないか。すっきりしない、ではなく設計されきれていない、という印象だった。絵の魅力に乏しいのも残念。やはり紋切型で、ラストシーンなどなぜそんなベタなメタファーを・・・といっそ不思議なくらい。面白いことは面白かったのだが、あとちょっとでもっと面白くなるはずなのにそれがどこだかわからない、というもどかしさが拭えなかった。



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2002-06-25