アニメーション作家・山村浩二の最新短編をまとめたプログラム。全9作品から成る。

『怪物学抄』(2016)
架空の中世ヨーロッパの学者による、架空の生き物=怪物に関する公文書。「飼いならされた野生」「鎧という名の武器」等想像膨らませる言葉による紹介と、それを受けたイメージにわくわくする。どの怪物にも愛着が沸いてくるのだ。この怪物はこういう生態、という雰囲気が、短い時間の中でも伝わってくる。アニメーションというよりもイラストの良さと文章、そしてヘンデルの音楽とのマッチングの妙という印象だった。特に音楽の合わせ方は上手い!

『Fig(無花果)』(2006)
アニメーション映画生誕100年を記念して、「東京」をテーマに制作されたオムニバス・アニメーション『TOKYO LOOP』より、山村浩二制作パートを抜粋したもの。墨絵のようなモノクロっぽい画面で、東京タワーは登場するけど東京っぽいかと言われるとどうかなぁ・・・。自分の中の東京のイメージよりも、静かでひそひそざわめいている感じだった。音楽(山本精一)がやはり良い。

『鶴下絵和歌巻』(2011)
17世紀に製作された俵屋宗達の「鶴下絵和歌巻」をモチーフとした作品。その構造や宗達の意図を読みとき解釈を試みた作品。いわゆるアート系アニメーションという感じだが、正直な所あまり印象に残らなかった。山村の作家性よりも、宗達の作品をモチーフとして実験する、という意図が前面に出ているからか。日本ががそのまま動くようなイメージは美しいが。

『古事記 日向篇』(2013)
古事記のうち、日向を舞台にしたエピソード、「禊」「天照大御神」「此花之佐久夜毘売」「海佐知山佐知」をアニメーション化したもの。よく知られた創世神話なので物語に馴染みもあり、「お話」としての側面は今回上映作の中では一番強い。繊細だがどこか素朴な味わいのアニメーションの画風とも合っていた。それにしても、古事記の神様たちは結構やることがひどいな(笑)!改めて見ると、「海佐知山佐知」のオチとか結構エグくて軽くひくレベル。さらっと語られてるので余計に。

『干支1/3』(2016)
2016年トロント・リールアジアン国際映画祭20周年を記念し、「20」をテーマに製作された作品。干支は十干と十二支を組み合わせたとされるもので、60年で一周することから、20年を1/3周として表現した。1997年から2016年までの20の干支の要素が現れる。文字が生き物や表象に変化していく様は、漢字の醍醐味でもある。ほぼ朱と黒のみでの色彩表現で筆で描いたようなタッチはシンプルだが、メタモルフォーゼの連続はアニメーションならではの表現。

『five fire fish』(2013)
カナダ国立映画制作庁(国立でこういう省庁があるということがすごいな・・・)が開発した映画製作用iPadアプリ「McLAREN's WORKSHOP」のデモンストレーション映像として、その仲のEtching on film」というアプリを使って即興的に制作した作品だそうだ。アプリの名称通り、エッチングのようなひっかいた感じの線描によるモノクロアニメ。「fish」のスペルが魚になって泳ぎ回る、これも文字のメタモルフォーゼを表現した物。わずか1分強の作品だがのびのびとしている。

『鐘声色彩幻想』(2014)
本作もカナダ国立映画制作庁と、Quartier des Spectaclesのパートナーシップにより、カナダの実験映像・アニメーション作家ノーマン・マクラレンの『色彩幻想』の抜粋を用いて制作した作品。教会にプロジェクションする為、縦に長い画面構成になっている。今回上映されたものの中ではこれが一番好き。ドローイングにより音を視覚化するような作品。色と形の運動が楽しく、音楽との連動が実にかっこいい。こういうのがミュージックビデオってことじゃないかなと思った。なお、音楽はモーリス・ブラックバーン。鐘の音が印象的で、教会へのプロジェクション・マッピングには良く合っていたのではないか。プロジェクションされたものを見て見たかったな。

『水の夢(1原生代)』(2017)
ピアニストのキャサリン・ヴェルヘイストと舞台デザイナーのエルヴェ・トゥゲロンからの依頼による舞台用作品だそうで、当然音楽はヴェルヘイストによる演奏。これも音楽そのものと音楽との一体感が素晴らしい。山村監督、音楽への素養・理解度が高いんだろうなぁ。なおジョージ・クラムへのオマージュ作品でもある。海中での古生代の生物の発生と進化を描くが、アニメーションてこういう表現もあるのか!とちょっとはっとするところも。墨絵と写真の合成のような質感があって面白い。

『サティの「パラード」』(2016)
エリック・サティによるバレエ音楽「パラード」を、サティのエッセイの中の文章、ウィレム・ブロイカー楽団の演奏と合わせアニメーション表現にしたもの。バレエの登場人物の他、サティのエッセイ内に登場するジャン・コクトーやピカソだけでなく、同時代のマティスやマン・レイ、モンドリアンやジョアン・ミロらしきモチーフも登場する。そして当時アメリカと言えば映画!映画といえばチャップリン!なんだなぁと。賑やかでカラフルな楽しい作品。サティのエッセイの中に、「コクトーは明らかに私のことを敬愛しているが、机の下で足を蹴ってくる」というような一文があって、それはどんなツンデレ・・・!と吹き出しそうになった。

怪物学抄
山村浩二
河出書房新社
2017-07-14