ゲーム会社のCEOミシェル(イザベル・ユペール)は、自宅で覆面をした男に襲われレイプされる。被害に遭った後も今まで通り出勤し仕事をこなしていくミシェルは、友人たちに事件のことを報告する。警察への通報を勧められるが、彼女はかたくなに拒む。彼女には警察を毛嫌いする理由があったのだ。原作はフィリップ・ディジャンの小説『oh・・・』。監督はポール・バーホーベン。
 画期的なヒロインであると大絶賛されるのと同時に、レイプ被害の経緯の描き方に問題があると批判もされたという前評は聞いており、どんな問題作なんだろうと思っていたら、あれ?案外普通・・・。ドラマの見せ方は手堅いのでそれなりに面白いが、斬新さや強烈な何かは感じない。確かにレイプ被害に関する、主に犯人との関係の部分が変な誤解をされかねない描写なので(意図的に複数の解釈ができるような演出にしているのだとは思うが)、そこは批判されるだろうなというのはわかる。ただ、私にはミシェルがごく普通の人物であるように見えたし、彼女の行動も特に特異なものではないように思った。
 ミシェルは平均よりはしっかりとした、頭のいい人として描かれているが、特別に意思が強いとか、モンスターのようであるという印象は受けなかった。理不尽なことがあれば怒るし、攻撃されたら身を守ったりやり返したりするし、気に入らないことは気に入らないし、やりたいことはやる。こういうのは普通のことだろう。それとも、こういう態度は普通ではないと取られるのが一般的なのか?だとしたら随分とカルチャーショックがあるな・・・。
 ミシェルはそれなりに意志は強くやりたいことはやる人だが、相応の躊躇や迷いもある。彼女がレイプされたと知っていながら「俺は気にしないから」とばかりにセックスしにくる愛人にややうんざりしながらも、結局は相手をする件など、結構流されていて意外だった。また、頼りない息子を結局甘やかしてしまうところも、やはり流されている。全面的に強いというわけではないのだ。そういう所を含め、実に普通だと思う。
 特異さを感じさせるのは、むしろ引っ越していく「彼女」だろう。別れ際の一言の背後にあるものを考えると、ちょっとぞっとする。そこでなぜ食い止めないの!と。少なくともミシェルは食い止めようとしているわけなので。「彼女」が支えにしているものを思い返すと、これまたぞっとする。それは、ミシェルの父親をある行為に駆り立てたものと同じところに根差すのだ。結局自分勝手な希求、解釈を否めない類のものなのかもしれない。
 ところでユペールは、母親と多かれ少なかれ確執のある役柄を演じることが多いように思う。本作も「母親が大変」物件でもあった。ただ、母親との関係は悪いけど母親に抑圧されている感じではないので、そこは他の作品とは一味違うかなと思う。そもそも本作はそれ以上に「父親が大変(どころじゃない)」物件なんだけど・・・。ミシェルが自分を縛るものをどんどん排除していく話なので、そこは爽快だった。

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