エリザベス・ウェイン著、吉澤康子訳
 第二次大戦中のフランスで、イギリス特殊作戦執行部員の女性がナチスの捕虜になった。彼女は痛めつけられ、イギリス軍の機密を教えれば尋問を止めると親衛隊大尉に強要される。彼女が綴る内容は、親友の女性飛行士マディを主人公とした小説のようなものだった。彼女はなぜこのような書き方をしたのか?
 二部構成になった作品で、前半は捕虜となった女性の手記、後半は手記の書き手ではない、また別のある女性の闘いが描かれる。前半の手記が何だったのかということが、終盤で明らかになっていき、書き手であった女性のなけなしの勇気と知恵にぐっとくるのだ。彼女が手記で何を伝えようとしたかというミステリ要素はもちろんあるのだが、本作全体としてみると、正直そこにはあまり感銘を受けない(読む際にもそれほど重視する必要はなく、出し方も取って付けたような感じではある)。むしろ、彼女がこの手記の読み手として誰を想定していたのか、どんな気持ちを込めたのかという部分に心をうたれる。彼女は冒頭に「私は臆病者だ」と記す。確かに、彼女たちは聡明ではあるが戦場の残酷さに耐え抜けるほど強くはない。物理的な暴力に対しては無力だし、尋問・脅迫にも屈してしまうだろう。自分でもそれはよくわかっており、「怖い物リスト」の内容が戦況が悪化するにつれ変化していくのは痛ましい。しかしそれでもなお、彼女たちを踏み留まらせるものがある。「キスしてくれ、ハーディ」という言葉に込められたもの、それを受け取る者の姿にぐっときた。愛と友情という言葉はこういう時に使うのか。

コードネーム・ヴェリティ (創元推理文庫)
エリザベス・ウェイン
東京創元社
2017-03-18


スカートの翼ひろげて [DVD]
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2000-02-04