19歳で史上最年少のロイヤル・バレエ団プリンシパルになったセルゲイ・ポルーニン。圧倒的な才能で絶賛されるが、2年後に突如退団を発表する。その後、ホージアの『Take Me To Church』のMV出演で再び注目を集め、YouTubeでのMV公開によりバレエファン以外にも知られるようになった。本人、家族、友人らのインタビューを通し彼の姿に迫るドキュメンタリー。監督はスティーブン・カンター。
  私はバレエには疎くてポルーニンの名前も本作で初めて知ったくらいなのだが、素人目にも子供時代から才能がずば抜けていることがわかる。特に横っ飛びにすっ飛んで行くような飛翔の仕方がすごい。えっこんなに飛ぶの!とびっくりする。彼の母親は息子の才能を確信し、家族全員で学費を工面してバレエ学校に入学させるのだが、実に先見の明があったということだろう。また、息子の才能と母親の確信を信じた家族も、本当に理解と愛情があったのだと思う。 しかし、費用の工面の為に父と祖母が出稼ぎに、更にイギリスにはポルーニン単身で渡るという状況の中、両親は離婚。誰のせいというわけでもなく、こういう状況だったらしょうがないんじゃないかなとは思う。ポルーニンが責任を感じることはないのだろうが、彼がバレエに打ち込んだのは経済面を含め家族の努力に報いる為(当人もプレッシャーを感じたと言っている)という側面も多々あったのだろう。ロイヤル・バレエ時代のポルーニンはスキャンダラスな言動でも有名だったそうだが、バレエに賭けたことで結果的に家族がバラバラになっていったことも、彼の迷走の一因だったのかもしれない。梯子を外されたような気がしたんじゃないだろうか。精神的に成長しきっていないまま地位を築いてしまった人の右往左往という感じがするのだ。
  また、ポルーニンのバレエ学校での担当教師によると、彼は振付をマスターしつつ、毎回違う解釈を加えてきたそうだ。彼の退団後の紆余曲折を見ると、バレエという枠にダンサーとしての彼が求めるものが収まり切らなかったのかなという気もする。もちろんバレエダンサーとして突出してはいるのだが、どんどんはみ出ていく感じの人なのかなと。
 本作、ポルーニン本人の言葉は意外と少ない。彼の周囲の人たちが見た彼、という側面の方が強いが、それも少々通り一遍な言葉であるように思った。家族の話にしても、アウトラインはなぞっているが彼の内面には迫っていないのだ。その為、ドユメンタリーとしては少々薄味になっている。ポルーニンを知らない人に紹介するにはいいが、既に知っている人には大分物足りないのではないか。ポルーニン自身が言葉での表現があまり得意ではない人なのではないかもしれない。彼の雄弁さはやはりダンスによるものだ。随所で挿入される彼が踊っている映像を見ると、もっとこれを見たい!と思うのだが、だったら彼のステージのDVDでも見ていればいいわけで、ドキュメンタリーを見る必要はない。ドキュメンタリーである本作が彼のダンスに負けている。撮影側が、ポルーニンに切り込めなかった(ポルーニンが距離を詰めさせなかった)んだろうなぁ。なお、ロックやポップミュージックを多用しており楽しいことは楽しいのだが、ちょっと音楽による説明過剰になっている気がした。エンドロールは正に!って感じではまっていたが。

英国ロイヤル・バレエ団「オンディーヌ」(全3幕) [DVD]
英国ロイヤル・バレエ団
日本コロムビア
2011-04-27