召使養成学校のベンヤメンタ学院に入学したヤーコプは、服従を学ぶレッスンに励む。学園長ベンヤメンタ氏の妹で唯一の教師であるリーサに惹かれ、彼女に学園の奥へと導かれていく。原作はローベルト・ヴァルザーの小説『ヤーコプ・フォン・グンテン』。監督はブラザーズ・クエイ。「ブラザーズ・クエイの世界」Cプログラムにて鑑賞。
 クエイ兄弟と言えば人形を使ったアニメーション作品だが、本作は数少ない全編通して人間の俳優を使った長編映画。しかし、やはりクエイ兄弟はクエイ兄弟。作風は一貫している。銀板写真のような質感の映像と、閉ざされた空間。そしてフェティッシュさとセットになったエロティシズム。本作では生身の人間が出てくるが、生身であるということよりも、体のパーツに対するフェティッシュ、特に手の動き(ここは非常に厳密な演技が要求されてるんだろうなぁという気がする)によるエロティシズムが濃厚だった。生身の人間全体としてのエロティックさというものは、実はそれほど感じられない。また、召使養成学校ということで、服従が課されていることによるSM的な味わいも。ヤーコプはベンヤメンタ氏やリーサに従順だが、ベンヤメンタ氏やリーサもまた、ヤーコプに、あるいは学院そのものに服従しているようにも見える。
 ヤーコプとキリストになぞらえるようなベンヤメンタ氏の発言や、教会のミサを模したような学生たちのパフォーマンスがあったりする。しかし、ヤーコプは殉教者でも救世主でもなさそうだし、ベンヤメンタ氏もリーサも何かに帰依しているという感じではない。ベンヤメンタ氏とリーサがいる世界は、変化のない完結した閉じた世界だ。スノードームのように舞い散る雪や丸い金魚鉢は、閉じた世界の象徴だろう。2人はそこから解放されたいようでもあり、閉じた世界が壊れることを恐れているようでもある。ヤーコプが入学してきたことで、彼には全く自覚はないのだが、ベンヤメンタ氏もリーサも揺り動かされ世界は変動していく。しかしそれは、完結していた世界が壊れて元には戻らないということでもあるのだ。その壊れていく予兆がそこかしこに感じられ、見ている側も不安に駆られてくる。

ブラザーズ・クエイ短編作品集 [Blu-ray]


KADOKAWA / 角川書店
2016-08-05