畢飛宇著、飯塚容訳
 南京の「沙宗琪マッサージセンター」は、親友同士の沙復明と張宗琪が共同出資して開いたマッサージ店。2人の店長も他のマッサージ師たちも盲目で、店の中では盲人の社会がつくられていた。ある日、沙復明のかつての同級生・王が恋人・小孔を連れ職を求めてやってきた。王は株で失敗して開業資金を失い、小孔は恋人の存在を家族に言えず、駆け落ち同然だった。
 私は本作を原作にしたロウ・イエ監督の同名映画(とてもいい)を先に見ていたので、映画はここのアレンジを変えていたのかとか、実際はこのパートが結構長かったのか等、映画と比較しながら読んだのだが、本作自体がとてもいい小説だ。盲人の世界の描写の細やかさ、彼らの形成している「社会」のあり方は小説の方がよりくっきりと立ち上がってくる。マッサージ師たちの間での感情のベクトル、微妙なパワーバランスの危うさは、限定された人間関係の中では起こりがちなもので、温かみがあると同時に人間関係の狭さと偏狭さによる息苦しさを感じる。人間関係の厄介さ、羨望や嫉妬はどこの国であれどんな人であれ同じなのだ。映画と同様に強く印象を残したのは、王の弟の借金を巡る振る舞い。長男の難儀さがのしかかってくる。また、この騒動にけりをつける行動がとんでもないのだが、それが彼の誇りによるものだという所に、彼が今まで何を我慢して何を支えに生きてきたのかが露わになり痛切だ。一人の人間としての誇りであり、盲人としての誇りでもある。本作は、登場人物それぞれの「訳あり」な部分や狡猾さや衝動を描く一方で、それぞれの誇りにも度々言及する。人は何に依って立つのかという部分がそこから垣間見えるのだ。それにしても借金騒動の顛末、これで王は少し自由になれたのではとも思えるが、弟がけろっとしている所がまた腹立つんだよなー。どこの世界にも無自覚なクズっているよな・・・。


かつては岸 (エクス・リブリス)
ポール ユーン
白水社
2014-06-25