特集上映『ブラザーズ・クエイの世界』のうち、Fプログラムを鑑賞。2000年代の作品をセレクトした以下のラインナップだった。現在、渋谷区の松濤美術館で開催中の企画展「クエイ兄弟 ファントム・ミュージアム」(私は神奈川県立近代美術館葉山別館で開催した際に見た)と連携した特集上映。

『ソングス・フォー・デッド・チルドレン』(2003)
 以前のブラザーズ・クエイ特集上映で鑑賞したことがある。当時の感想はこれ。ブラザーズ・クエイ作品の中でもかなり好きな作品になる。コーラスとマリンバを多用した音楽と相まって、異様な高まりを感じる。チョークと子供の手の鬼ごっこのような円環運動等、中毒性が高い。クエイ・ブラザーズの作品て、実部を見るとわかるのだが決して人形やセットが大きいわけではない。それをさも奥行があるように見せるのは、撮影技術が高いからなんだなとよくわかる。また(本作に限ったことではないが)同じ映像を何度も反復しても手抜き感とか使い回し感が出ないところは、編集センスの良さなんだろうなぁ。やや強迫神経症的な作風との相性の良さかもしれないが。

『ファントム・ミュージアム』(2003)
 ロンドン科学博物館の医学コレクションを取り上げた作品。今回初見かと思っていたら、以前の特集上映でこれも見ていた。コレクション自体はいたって真面目なもので、過去の医療機器や人体模型等を収集したものなのだが、フェティッシュさを強く感じる。対象物自体がフェティッシュさをまとっているというよりも(そもそも大半は実用の「道具」だから)、自分の中にあるフェティシズムを喚起させられるような撮り方をされている、と言った方がいいかもしれない。ただし、女性型の人体内臓模型(人体内臓の模型で、横たわった女性の「蓋」を開けると内臓が見える)には作った人の執念というか、強いこだわりみたいなものを感じた。素朴とは言え胎児とへその緒まで再現してある。この女性型内臓模型、当時同じようなものが流行したという話をどこかで読んだことがあるのだが、何か一部の人の心に訴えるものがあるのだろうか・・・。クエイ・ブラザーズの手腕というより、対象物の強烈さが印象に残る。

『ワンダーウッド』(2013)
 題名の通り木材を使ったアニメーション。研磨された木材の質感、木目を活かしたビジュアルは、クエイ・ブラザーズ作品の中では異色かもしれない。他の作品に比べると世界観が明るくクリアというか、アクがないなと思っていたら、コム・デ・ギャルソンからの発注だったのね・・・(同名の香水の発売に合わせて制作されたらしい)。予想外のヘルシーさだったが、松ぼっくりや蓮の根のアップは少々禍々しく、朽ちて液体化するイメージも付きまとう。

『涙を流すレンズを通して』(2011)
 フィラデルフィア医師会内にある医学コレクションを取り上げた作品で、『ファントム・ミュージアム』の発展形とも言える。フェティシズムが更に加速しているが、これはコレクションの内容にもよるのかな。個々の死亡背景まで伝えられる大量の頭蓋骨や、骨外性骨形成の少年の骨格標本は、その標本の背後にある死者の物語込みで妙に人を引きつける美しさがある。それは死者の尊厳、死者との思い出を冒涜することなのかもしれないが・・・。収集した人の妄執みたいなものは、『ファントム・ミュージアム』よりも強く感じられた。同じタイプのものを大量に、というのが(それこそがコレクターということなのだろうが)何となく怖いのだ。

『正しい手:F.Hへの捧げもの』(2103)
 ある貴婦人を巡る短編。ラテン文学のマジックリアリスムのような味わい。ナレーションがついているのだが、何か原作となった小説等があるのかな?水辺を舞台に、蒸し暑さ、湿度、夜の風みたいなものに満ちている。熱気をはらんだ空気感は、クエイ・ブラザーズ作品としては珍しいかもしれない。夢の中で感じるような水の気配の再現度が高かった。自分を映し出すものとしての水=鏡と、自分を(船で)運んでいくものとしての水の存在感が大きい。