織田作之助著
 何をやってもどん臭い青年・楢雄の人生を描く表題作の他、著者が戦後に発表した短編小説11篇と評論2篇を収録した岩波文庫版。
『夫婦善哉』収録作と比べると、作品単体の構成のバランスが良くなっており、『夫婦善哉』ばかりが有名なのは勿体ないことだなと改めて思った。1篇内の構成がかなり整理されるようになっている(特に『アド・バルーン』は語りの組み立てが活きていると思う)ので読みやすく、かつ独特の奇妙なグルーヴ感は保たれている。表題作をはじめ、著者の小説では主人公が一定の行動原理から抜け出さずに延々とループしていくような感覚があるのだが、それがグルーヴ感のようなものになっている。この人なんでこんなしょうもないことばっかりやっているのかと思いつつ、持って生まれた業ならもうしょうがないわという気分にもなってくる。この、そう生まれたんだからそう生きるしかない、という諦念のようなものが底辺に流れているように思う。評論『可能性の文学』では、志賀直哉(というよりも彼の文学に対するフォロワーの無批判性)に対する反抗心を表明しているが、逆に志賀の文学が文壇にいかに絶対的な影響を与えていたのかわかる。私小説的なもの、自然主義的なものが作ってしまった文学表現の一つの限界は、早い段階から指摘されていたことが垣間見える。なお本編中、著者が太宰治、坂口安吾と飲んでいる時のエピソードが披露されるのだが、「お前は何を言っておるのか」と真顔になる部分も。文士同士のわちゃわちゃに萌える方は目を通してみては。



天衣無縫 (角川文庫)
織田 作之助
KADOKAWA
2016-10-06