剣道の達人だった父親(小林薫)に幼い頃から鍛えられた矢田部研吾(綾野剛)は、剣道5段の腕前があるもののある事件以来、剣道を捨てて自堕落な生活を続けていた。ラップに夢中な高校生・羽田融(村上虹郎)は剣道部員といざこざを起こしたことがきっかけで、剣道部の師範を務める僧侶・光邑(柄本明)に剣道を教わることになる。融に才能を見出した光邑は、矢田部の元に彼を送り込む。原作は藤沢周の小説『武曲』、監督は熊切和嘉。
 熊切監督作品はなるべく見ておこうと思っているので、本作も剣道とラップってどういうつながりが・・・と思いつつ見に行ったのだが、ちょっとこれは、力作でありつつ珍作っぽい。主演2人の肉体の存在感と動きの良さで間が持っているが、脚本があまり上手く機能していないんじゃないかなという気がした。
 研吾と融、全く異なる背景を持った2人の「剣士」が対決していくという構造だが、研吾側に比較すると融側の掘り下げが浅く、融がいなくても成立しそうな話に見えてしまっている。融が死に魅せられているという設定も、それを示唆する設定や原因の説明が唐突なので、いきなり何言いだしてるんだイキってるなーもしや中2病か・・・みたいな印象になってしまう。村上自体はいい演技をしているので大分勿体ない。彼が母親と2人暮らしで親子関係は悪くないらしいという背景は少しだけ描かれているが、もうちょっと見えてもいいんじゃないかなと思った。研吾側は、父親との葛藤が物語の軸になっているだけあって、親子関係、家庭環境にかなり分量を割いて見せている。
 それにしても、父親がクズだとほんとどうしようもないな!ということに尽きる話に見えてしまった。2人の若い剣士(というか主に研吾)が強さとはどういうことか向き合っていくという部分が、自分の中で吹っ飛んで印象が薄い。研吾の父親は優れた剣士で後輩からも慕われているのだが、息子への指導はやたらと厳しく肉体的、精神的にも虐待めいているし、研吾の母親に対する態度も横暴(序盤、研吾の子供時代回想シーンで、母親が父親に声を掛ける時のびくつきかたが古典的すぎて笑ってしまった)。終盤、父親が残した手紙の内容が明らかになるが、そういうことがわかっているなら手紙なんて書いてないで他にやることあるよな!と突っ込まずにいられない。こういう弱さって本当に迷惑だよな・・・。研吾は「父殺し」をやろうとしたわけだが、それによって逆に父親の弱さ、クズさを引き継いでしまったように見えるのだ。そこから再起していく原動力みたいなものが、いまひとつ掘り下げられていなかったように思う。ちょっと俳優に頼りすぎ。

武曲 (文春文庫)
藤沢 周
文藝春秋
2015-03-10

武曲II
藤沢 周
文藝春秋
2017-06-05