看護師をしながら夜はガールズバーで働く美香(石橋静河)。工事現場の日雇い仕事をしている慎二(池松壮亮)。東京で生活しつつも馴染めずにいた2人は、美香が働いてるガールズバーで出会い、徐々に近づいていく。原作は最果タヒの同名詩集。監督・脚本は石井裕也。
 詩集を原作にした映画、それもちゃんとドラマ仕立ての映画というのはなかなかないと思うし、どういう仕上りになっているんだ?と思っていたけど、なるほどこうなるのかと納得。詩の言葉をそのままセリフやモノローグとして使うのは難易度高いと思うのだが、なかなかうまく消化されていたと思う。詩の言葉は物語の中に組み入れると往々にして強すぎるので、最初はちょっと気合入りすぎてるんじゃないのと見ていてむずむずしたが、段々慣れてきた。主人公2人の気を張っている感じ、どこか武装している感じが、言葉のインパクト、強さと合っているのだ。言葉があふれ出てきて止まらないような慎二に対し、美香は口数少なく、自分内での気持ちの内圧が高い感じ。しかし、自分の言葉を投げるべき相手がいない、言葉が通じる気がしていないという点では2人は共通している。コミュニケーションの為ではない言葉がたくさん出てくる映画なのだ。自分の中身がこぼれだすような言葉だから、たまたま相手にそれが通じた瞬間がより貴重に思える。
 石井監督の作品を見ていると、お金のなさに対する感覚が毎度冴えているなぁと思う(お金がある状態もちゃんと描けるのかもしれないけど、今まで作品内に出てきたことがない)。この仕事だとこのくらいの年収でこういう感じの生活、という部分に肌感覚の説得力がある。そこが、見ていて辛くなる(身に染みるので)ところでもあるのだが。本作の主人公2人は、若いがここよりも上に行ける、将来的にもっといい暮らしが出来るというような希望を感じていない。這い上がるということがとてもし難いし、そういう意欲を削がれるような世の中で生きているという感じが、すごくするのだ。ただ、2人とも無理に自分を大きく見せるようなことはせず(2人の周囲の人たちも同様だ)、地に足がついているともいえる。2人の関係には浮き立つような部分は少ないのだが、そのテンションのまま距離が縮まっていく感じに、むしろ希望が持てる。
 東京、主に新宿と渋谷が舞台で、街中を移動するシーンも多い。しかし、移動経路が今一つ不自然なように思った。街に対してあまり思い入れを感じない。外から来た人にとっての東京の映画なのか。