トーマス・リュダール著、木村由利子訳
 カナリア諸島のフエルテヴェントゥラ島。海辺に遺棄された車から、およそ三カ月の男の子の餓死死体が発見された。タクシー運転手兼ピアノ調律師のエアハートは、警察が事件をうやむやにしようとしていると知り、何かに掻き立てられるように事件の真相を調べ始める。
 舞台はカナリア諸島だが、優れた北欧ミステリに授与されるガラスの鍵賞受賞作。著者はデンマーク人で、主人公のエアハートはデンマークからスペインへの移住者なのだ。島ではどこか「よそ者」感ぬぐえないエアハートの立ち位置が、事件を探る探偵役としての視線に繋がっているように思った。しかしこの探偵役、あまりにも危なっかしい。1章に1回くらい、えっちょっと落ち着いて行動しては・・・とたしなめたくなるような突飛な行動に出る。その行動は絶対裏目に出るぞ!と読んでいて思うし実際負のスパイラルでエアハート自身にも収拾がつかなくなっているのだが、なぜそうしてしまうのか、という部分について具体的な説明はない。彼の推理や行動は、多分に「こうあってほしい」というフィルターがかかっているものだ。恋人たちには愛し合っていてほしい、母親は子供を愛しいつくしんでほしいと言うように。それは自己満足的なものでもあり、危なっかしい。彼は世捨て人のように生きているが、まだ悟りの境地には程遠く、失ったものを諦めきれず、未練たらたらなのだ。彼の未練に物語自体が引き回されているようだ。