マイアミの貧困地域に暮らすシャロンは、小柄で内気なことから学校ではいじめられていた。母ポーラ(ナオミ・ハリス)は仕事で不在がちなことに加え麻薬の常習者で、子供に構う余力がない。シャロンを気に掛ける大人は麻薬ディーラーのフアン(マハーシャラ・アリ)だけだった。10代になったシャロン(アシュトン・サンダース)は親友のケヴィン(ジャハール・ジェローム)に強い思いを抱くようになるが、誰にも言えずにいた。監督はバリー・ジェンキンス。第89回アカデミー賞作品賞、脚色賞、助演男優賞を受賞。
 シャロンの3つの時代を3人の俳優が演じる。小学生くらいの「リトル」、ティーンエイジャーの「シャロン」、大人の「ブラック」(トレバンテ・ローズ)、どれも素晴らしかった。3人は顔かたちがすごく似ているというわけではないのだが、流れの中で見るとちゃんと同一人物に見える。シャロンからブラックへの飛躍がすごいのだが、自衛の為にこうならざるを得なかったということが分かるので切ない。出演している俳優は総じて好演でとてもよかった。
様々な愛を目にするラブストーリーで、誰かを思いやる態度、誠実さの表出の仕方が素晴らしい。シャロンの3つの時代は、彼が(おそらく数少ない)愛を他者から受けた部分を切り取ったものではないかと思う。フアンは大人の男性として、父親のような愛をシャロンに向ける。彼に食事をさせ、海に連れ出して泳ぎ方を教える。学校にも家庭にも居場所がないシャロンにとっての避難所のようになってくれるのだ。シャロンが「オカマって何?僕もそうなの?」と質問した時の答え方は、子供に対する誠実さのある真剣、かつ非常に配慮されたものだと思う。しかし、フアンの仕事は麻薬のディーラーであり、シャロンの母親もフアンが売る麻薬によって蝕まれていく。この点のみ、フアンはシャロンを裏切っていると言えるだろう。シャロンに対する思いやりは、罪悪感からくるようにも見えるのだ。シャロンが自分内で納得してしまったことがわかる別れのシーンが切なかった。
また、ケヴィンのシャロンに対する態度も愛(友愛であれ性愛であれ)があふれるものだ。ケヴィンは社交的で女の子にもモテる、シャロンとは別のグループの生徒。それでも不良グループに絡まれるシャロンをいつも気に掛けている。彼の肝心な所をはずさない距離感は、シャロンにとって得難いものだ。だからこそ、ある事件の顛末が痛ましい。シャロンにとってはケヴィンを守る為でもあるが、ケヴィンにとってはシャロンへの裏切りになる。シャロンは2度、愛した人に裏切られるわけだ。
シャロンはケヴィンと成人後に再会する。シャロンの風貌にも振舞にもかつての弱弱しさはないが、ケヴィンの前ではかつての繊細な少年の顔を見せてしまう。その変わらない部分を、ケヴィンがちゃんと見つけていることにたまらなくなった。2人の言葉の選び方、動作の選び方の慎重さに、時間の流れとお互いの中に残り続けるものとを感じる。