大工として働いてきた59歳のダニエル・ブレイク(デイブ・ジョーンズ)は心臓を患い、ドクターストップにより働くことができない。国の援助を受けようとするが、複雑な仕組みやインターネット上でしか申請ができないという規則によってままならない。そんな折、同じく援助を拒まれ難儀していたシングルマザーのケイティ(ヘイリー・スクワイアーズ)と出会い、彼女と子供達を手助けするようになる。監督はケン・ローチ。
 本作のパルムドール受賞については、悪くはないが受賞するほどではない、またケン・ローチか等々の反論もあったが、確かにパルムドールにしては小粒ではあるだろう。しかしそれ以上に、今こういう作品が必要なんだ、正に現代の作品として立ち上がっているのだという、監督と、本作を受賞作に選んだ選考委員の強い意志を感じた。正直、本作見るまでは今更ローチが受賞なんて随分保守化してるなー等と思っていた。申し訳ない。ケン・ローチ監督の怒りと反骨精神がみっしりと籠っている、かつ適度なユーモラスさもあって小粒だがタフな作品だった。なお監督の作品としては、イギリスでの興行成績は相当いい部類だったそうだが、本作のような作品が集客するということは、ダニエルに共感する人が大勢いるということだろう。
 ダニエルが苦戦する公的支援申請は、いかに申請者を振るい落とすか、そして振るい落とされ方が申請者の選択である体裁にするかという部分に注力しているんだろうなぁとげんなりするものだった。お役所仕事による無駄の多さ、融通の利かなさというよりも、戦略的に煩雑に、切り捨てるための理由を用意しているのだろう。最早不条理コメディのようだ。また、オンライン申請のみというシステムには驚いた(日本はまだそこまでじゃないですよね)。パソコンに不慣れな層は最初から振るい落とされてしまう。働いていたらパソコン位使えるでしょということかもしれないが、ダニエルのようにそういうものを使わない仕事の人だっている。何だか申請や審査の過程で、申請者のプライドをどんどん削いでいこうとしているみたいなのだ。まだ努力が足りない、真剣さが足りないって、じゃあどこまでやればいいんだよ!と叫びたくなるし、そもそも基本的な生活・生命を左右する援助は真面目・不真面目の別なく受けられるべきなんじゃないのと思う。
 ダニエルはシステムのおかしさの一つ一つに声を上げるが、苦境から抜け出すのは難しい。しかし彼が声を上げることで、同じように声を上げる人や、彼に手を差し伸べる人は出てくるだろう。ダニエルはおかしいと思ったことにすぐ声をあげるのと同様、困っている人がいるとためらわず手を差し伸べる。そして自分自身、周囲にも結構助けを求める。頼めば、皆結構助けてくれるのだ(ダニエルの隣人の若者たちのタフさと軽妙さが救いになっていた)。こういうちょっとした手助けをためらわないことが、ひいては多くの人を支えるようになるかもしれない。苦境を他人事にしない想像力が求められているのだ。わたしも、ダニエル・ブレイクだと思えるかどうかなのだろう。もっとも、現状そのくらいしか出来ることはないだろうというところが辛いのだが・・・。
 経済的に追い詰められ、自分を切り売りしていくしていかざるを得ない時の消耗感とか、どうしようもない感じが迫ってきて辛い。ケイティがバスルームの掃除をしているシーンはやりきれないし、フードバンクのシーンでは泣いてしまった。追い詰められるというのはこういうことなんだよなぁと。そして、(当人の責任・能力の有無に関わらず)人はこんな追い詰められ方されていいはずないのだ。これを防ぐのが福祉の役割のはずなのに(なお、作中のフードバンクは民営)。