自動車の玉突き事故によって、結婚間近の婚約者を亡くしたシンミン(カリーナ・ラム)と、妊娠中の妻を亡くしたユーウェイ(シー・チンハン)。2人は愛する人の死を受け入れられずにいたが、初七日、四十九日、七十七日と時間は過ぎていく。監督はトム・リン。
 愛する人の死という題材であっても過剰なウェットさ、ドラマティックさはなく、むしろつつましやかな印象の作品。シンプルな物語だが、パートナーを突然亡くして頭も心も状況についていけない感じがありありと描かれる。親戚が葬儀の手筈を相談していることに苛立ったり、周囲がよかれと思ってやってくれることが的外れに感じられてしょうがなかったりと、周囲の状況から置いていかれている、自分だけ時間が動かない感じが切実だった。 一人で喪失と向き合う時間が必要なのだろうが、周囲の状況はどんどん進むし、一人でいすぎると死に近づきすぎてしまい危険でもある。前に進むことと引き戻されることとの間で、シンミンもユーウェイも揺れているのだ。
 最初のうちは自分と亡くしたパートナーとの間のことしか考えられず苦しんでいた2人だが、時間がたつにつれ、視界が広がっていく。自分以外にも死者を悼む存在がおり、自分にとっての死者とはまた違う側面を見ていたのだということ、また死者が残していったものがあったことに気付いていくのだ。ここまでくれば、あとはきっと大丈夫という気持ちになってくる。四十九日とか七十七日、死者との距離を測るシステムとしてよくできていたんだな・・・。
 台湾の映画だが、街中にしろ山の上のお寺の周囲にしろ、風景に味わいがあった。お寺まではバスで山道を登っていくのだが、木漏れ日の中をぐねぐね進んでいく様がとてもいいのだ。ちょっといつもと違う場所に行くような非日常感を感じる。また、シンミンは新婚旅行で行くはずだった沖縄を1人で旅するのだが、日本国内で自分も実際に行ったことがある場所の風景なのに、海外の映画の中に出てくると海外のように見えるというのが何だか不思議。映画の中の沖縄は、シンミンにとっての沖縄なんだなと。シンミンの婚約者は料理人だったので、(彼が食べたかった、また彼が残したレシピによる)色々な料理が出てくるが、どれもおいしそうだった。
 なお、台湾でも日本の漫画は相当読まれているのね。稲中とか、神の雫とか、将太の寿司とか・・・。