ユッシ・エーズラ・オールスン著、吉田奈保子訳
 コペンハーゲン警察の未解決案件専門部署・特捜部Qに電話がかかってきた。電話の主は退官直前の警官。どうしても話したい事件があるというが、カール・マーク警部補は多忙を理由に電話を切ってしまう。後日、この警官、ハーバーザートが退官式で自殺する。彼は17年前の少女ひき逃げ事件を追っていた。跳ね飛ばされた少女が木に逆さづりになったまま絶命したというその事件に、ハーバーザートは憑りつかれ、妻子にも愛想を突かされていた。マークたちは捜査を開始する。
 シリーズ6作目。相変わらずとても面白いし、カール、アサド、ローセの関係性の変化も見所。作中でカールが、アサドやローセと出会ってもう7年かと思い返すくだりがあり、作中時間そんなに経過していたのか!と驚いた。そりゃあカールも丸くなるよなぁ・・・。今回はとある事情でアサドやローセのトラウマが呼び起され、彼らの過去が垣間見える。アサドは依然ガードが堅いのだが、ローセのトラウマは結構深刻そうで、今後のシリーズにも影を落とすのではないか。
 愛する者を愛ゆえに直視しない、見なかった振りをするという状況が異なる形で何度か現れており、特に子供に対する期待が入り混じった親の「見ない振り」は辛い。また本作の事件の背景に新興宗教団体が現れてくるのだが、ある種のカリスマは薬にもなりうるが毒になる可能性の方が高いのかもしれない。「彼」がそんなに魅力的でなければ事件は起きなかった、あるいはもっと単純に解決されていたかもしれない。「彼」の磁力みたいなものにより、どんどんミスリード要素が増えていくのだ。巻き込まれた方はたまったもんじゃないどころか、大きな悲劇が見えてきてやりきれない。