トップモデルを夢見て田舎からロサンゼルスへ出てきた少女ジェシー(エル・ファニング)は、モデル事務所と契約を交わし、人気カメラマンのテストモデルになる。若さと天性の魅力によってカメラマンやデザイナーの心を捉えたジェシーはトップモデルへの階段を上り始めるが、彼女の魅力はライバルたちの嫉妬心に火をつけるものでもあった。監督はニコラス・ウィンディング・レフン。
 メタリックな蛍光色に彩られた夢のように美しく血みどろな世界という、「いつものレフン」感満載の新作。見る側としてはまたこれ?という気分もあるが、ビジュアルの癖こそがこの監督の最大の持ち味なんだろう。『ドライヴ』にしろ『オンリー・ゴッド』にしろ本作にしろ、物語自体は非常にオーソドックスな恋愛であったり復讐譚であったりという、ごくありふれたものだしストーリーライン自体もそんなに捻ってこない。見せたいのは物語を媒介とした映像そのものということか。話がどうこうとかはあんまり興味ないのかもなー。美しさ=ビジュアルが全てという本作のモチーフは、レフン監督の作風と一致しているとも言える。それにしても、若さと美しさの追求が人を狂わせていくというのは、今時それかよって感じが否めない。未だにそれがネタになるくらい、ハリウッドは美と若さが持てはやされる世界ってことなのだろうが。
 本作の設定の前提として、ジェシーを演じるエル・ファニングに絶対的な魅力がなければならないのだが、正直な所、それほどとは(私個人の趣味では)思えなかった。なので、カメラマンもデザイナーもジェシーを見ると息を呑み夢中になっていくという展開には、なんだかなという気分になってしまう。また、周囲の女性達も彼女に嫉妬し、あるいは魅了されてとんでもないことになるのだが、何というハイリスクローリターン!的な感想しか出てこないのね・・・。わざわざそんなことするほど、ジェシーに魅力ある?って思ってしまう。また「そんなこと」後の3人の女性も、特に魅力が増したようには見えないし、カメラマンにインスピレーション与えるようにも見えない(ので終盤の抜擢が茶番に見えてしまう)。美の基準て難しいなー。「ネオン・デーモン」とは一見ジェシーのようでもあるが、彼女の中にそういうものを見出してしまう周囲の心理、そしてそういうもの、外的な美に固執してしまう監督の性分のことを指しているようにも思った。
 それにしても、前2作よりも悪趣味だなと(自慰はともかく満月の晩のあれは、大昔のすっごく安い悪魔崇拝ネタみたいで何か観客バカにしてる?って気分に・・・)思うところが多くげんなりした。自分の趣味の方向に舵を切りすぎるとどん引きされるタイプの監督だと思う。
 なお、なぜかキアヌ・リーヴスが出演しているのだが、彼が演じるモーテルの主だけ他の登場人物とは異質に見えるところが面白い。ジェシーに何か特別なものを感じている風にも見えない。キアヌは(世間的に一応)美形ということになっていると思うのだが、作中の美と若さを巡るあれこれにはとんと興味がなさそうなのだ。彼にとっては女は女、男は男、ピューマはピューマでそれ以外の何かは付加されていないのだろう。