1970年代後半の約5年間、ジャズミュージシャンのマイルス・デイヴィス(ドン・チードル)は音楽シーンから姿を消していた。慢性の腰痛に苦しみ、酒とドラッグに溺れていたのだ。そんな彼の元に雑誌記者デイヴ・ブレイデン(ユアン・マクレガー)が押しかけてくる。マイルズはブレイデンを巻き込み、盗まれた自分の新作テープを取り戻し行く。監督・主演はドン・チードル。
 ドン・チードルが執念で完成させたマイルス・デイヴィスの伝記的映画・・・ではあるが、これ決して事実を映画化したという意味での伝記映画ではないだろう。むしろ、チードルがマイルスを好きすぎて、俺が思うマイルスの5年間はこんな感じだ!むしろ俺がマイルスになりたい!くらいの気持ちでやらかしてしまったファンフィクション的な作品(と言ったら怒られそうだがチードル思い入れはそのくらいあると思うの・・・)といった味わい。部分部分に事実を元にしたエピソードは使われていると思うのだが、概ねフィクションと思った方がよさそうだ。何しろマイルズがいきなり ギャングと撃ちあいカーチェイスを始めるんだからびっくりしたよ・・・。
とは言え、マイルズがことあるごとにフラッシュバックのように過去を思い出し、回想の中で妻との愛とその破綻が見えてくるという構造は切なさを感じさせ悪くなかったし、過去と現在が混然一体となり、幻想が具体化したかのようなボクシング試合のシーンは印象に残った。彼の頭の中ではこんな具合にぜんぶごちゃごちゃになっているんだろうなと。
 どちらかというと珍品的な作品だと思うのだが、音楽はさすがにいい(ロバート・グラスパーがサントラ担当、ライブシーンにはハービー・ハンコックやウェイン・ショーターが参加)。チードルの気合入りまくったなりきり振りも、見ているうちに段々愉快な気持ちになってくる。そしてなぜか出演しているユアン・マクレガーだが、最近の彼は大体巻き込まれ役を演じている気がするしそれがはまっている。