杉江松恋著
本格ミステリ黎明期から1960年代くらいまでを中心に、数々の作品を残した海外の作家53人を紹介する書評、というよりも作家ガイドブック。日本ではあまり知られていない作家も多く含まれる。作家のプロフィール、おすすめ作品紹介はもちろん、当時の世相、社会背景までさらっと解説しており、著者の知識の幅と過不足のないバランス感が実感できる。一見、時代性とは無縁に思える作品であっても、その時代からは逃れられないし、積極的に時代性(ないしは時代に対するアンチテーゼ)を取り込み生き残る作品もあって、指摘されないとここは意識しなかったなと既読作品に対して気付いたところも。正直、大半の作家の作品は手に取ったことがない(多少読んでいるのはバークリー、ウォー、ブラウン、リューインくらいだもんなぁ・・・)が、ちゃんと読んでみたくさせるところが著者の腕。意外なところではO・ヘンリーをミステリ枠で扱っている。ミステリ小説に多少関心のある人にとっては、軽い読み物としてちょうどいいと思う。一気読みというよりも、休憩時間や寝る前に1章だけ読みたいという感じ。なお、著者はバランス感覚に優れているとは思うのだが、一か所これはちょっと言葉遣いのミスしたなという所があり、そこだけひっかかった。