宗教映画祭にて鑑賞。1927年、カール・ドライヤー監督のサイレント映画。神のお告げに従い、兵を率いてイギリス軍と闘ったジャンヌ・ダルク(ノルネ・ファルコネッティ)は捕えられ、異端審問をうける。審問官たちはジャンヌの答えを誘導し、異端放棄の宣誓書に署名させようとする。死の恐怖から一度は署名したものの、ジャンヌはこれを撤回、火刑に処される。
 ジャンヌ・ダルクの伝説の中から異端審問のみにスポットを当てた作品。実際には異端審問は何度も行われたそうだが、本作ではそれを1回、ほぼ1日の出来事として凝縮している。シンプルな話ながら、濃度がすごい。傑作と名高い作品だそうだが、納得だ。人の顔のクロースショットの連続と言っていいほどクロースが多く、ロングショットが殆どないという、個人的にはすごく苦手なタイプの作品なのだが、圧力がありすぎて苦手さが吹っ飛んだ。サイレントなので台詞は字幕で出るのだが、すべての口の動きに対して台詞が表示されるわけではなく、ここ何か言ってるな、くらいのことしかわからない部分も多い。にも関わらず、どういうやりとりがあったのか何となく流れがわかる。俳優の表情の作り方、その撮り方が的確すぎるのだ。
 特にファルコネッティの演技が素晴らしい。目の色が薄い人なので、顔の角度が変わるだけで光の入り方によって目の表情が変わる。これをフル活用して顔のアップだけで持たせてしまう。顔の微細な表情の変化が見事。ファルコネッティは元々舞台俳優で主演映画はこれ一本くらいだそうだが(本作の撮影があまりに大変で嫌になってしまったらしい)、こういう作品を残せたなら十分かなと思ってしまう。
 一環してジャンヌは高潔であり、審問官たちは悪辣な表情で撮られている。しかしジャンヌの信仰心の篤さは、理屈が通らない狂気と紙一重のようにも見える。神への信仰を再確認した後の目つきは、澄んだ瞳というよりも恍惚とした表情だ。更に、彼女の信仰あるいは狂気に誘発され、火刑を見に来た民衆もまた、ファナティックになっていく。何かが伝染していくような不穏な終わり方だ。