スコット(ジャスティン・セロー)と離婚したレイチェル(エミリー・ブラント)は、毎朝電車の窓から閑静な住宅街を眺めるのが習慣。その中の1軒に暮らす夫婦を、理想のカップルとして夢想していた。ある日、そのカップルの女性が夫以外の男性とキスしている姿を目撃する。そしてその女性・メーガン(ヘイリー・ベネット)は死体となって発見された。レイチェルはメーガンの夫スコット(ルーク・エバンス)に、彼女の浮気を教えに行く。原作はベストセラーとなったポーラ・ホーキンズの同名小説。監督はテイト・テイラー。
 原作は未読だが、むしろ未読のまま情報入れずに見た方が楽しめる作品なんじゃないかと思う。テンポが速く二転三転していく。レイチェルはとある理由によりいわゆる「信用できない語り手」。そして、面識のないスコットとメーガン夫妻にやたらと思い入れたり、自宅に乗り込んだりという行動からも、平静な状態とは思えない。なので、彼女主観のパートは、その意味合いを全て保留した状態、常に疑いをもった状態で見ることになる。中盤をかなり過ぎるまで諸々の事態が起こりっぱなし積みっぱなしなので、これ収拾付くのかなと思っていたら、あるやりとりでそれまでの構図が大きく変わる。物語の「絵」が何度も変化していくタイプのミステリだ。
 もっとも、レイチェルの語りがなぜ信用できないのかという事情以上に、彼女を信用できない語り手にしたのは誰なのか、という部分の方が本作のキモだろう。それは、殺人の動機の根っこにもあるものなのだ。動機となるものがしみじみと嫌なのだが、レイチェルはなまじ真面目だから真に受けてしまったんだろうな・・・。人の言うことを聞き流す人、真に受けずほどほどにしておくようなしたたかな人の方が、レイチェルが落ちた落とし穴みたいなものには落っこちないのかもしれない。
 主演のエイミー・ブラントは、出演作によって華やかな美人にも、レイチェルのような地味目でぱっとしないルックスにも見える。演技の上手さもあるし、風貌の応用の幅が広いという利点もあるのだろう。今年は主演作の『ボーダーライン』(ドゥニ・ビルヌーブ監督)も見たが、『ボーダーライン』では凛々しい姿だったのに本作ではよれよれで別人みたいだった。