第17回東京フィルメックスにて鑑賞。イスラエルに暮らす一家。ある日、長女イファットはアラブ人青年からの誘いを断り帰宅した。同じ日の夜、父親は新しいビジネスが上手くいかない苛立ちを、丘に向けて銃を発砲することで紛らわせる。翌日、丘でアラブ人青年の死体が発見される。監督はエラン・コリリン。
 ごく平穏に見えた一家が、ちょっとしたことから徐々にそれぞれ、危うい方向に進み始める。軍を退役した後、ねずみ講まがいの商売を始める父親、教え子との浮気に走る高校教師の母親、差別に反対しデモに打ち込むが、予想外の事態に巻き込まれる長女(他長男がいるが、概ね不在)。父親は「俺たちは悪人じゃない」と言う。一方で長女が出会ったアラブ人青年は「俺は悪いアラブ人じゃない」と言う。彼らは皆、決して悪人ではないし、悪事をはたらこうとしているわけではない。しかし、ちょっとしたはずみ、出来心で悪へ寄って行ってしまうこともあるし、そもそも無自覚に悪を選択してしまうこともある。自分は善人のはず、という思い込みこそが危ういこともある。
 アラブ人に対する偏見を持たないはずのイファットは、いざアラブ人青年に誘われると躊躇したり(とは言っても、初対面の男性に一緒に行かないかと言われたら若い女性は一般的に躊躇するだろうから、民族に対する偏見とはまた別問題にも思うが)、その罪悪感から後日わざわ亡くなった青年の自宅を訪ねて見舞金を渡そうとしたりする(イスラエルにおけるアラブ人の見られ方が垣間見えて興味深かった)。彼女は善意で行動したわけだが、それが遺族にとってどういう意味を持つかには思いが至らない。若さ故の独善と言えばそうなのだが、自分が善良であることを疑わないからこその落とし穴(その後の展開も含めて)であるような。
 前半、父親のビジネスがどうにも上手くいきそうもないあたりはユーモラスさもあるのだが、妻や娘の動向が不穏で、徐々に笑えなくなっていく。特に妻の無防備さというか、脇の甘さにはハラハラしっぱなしだった。それ絶対まずいって!という方向にどんどん行ってしまう。同年代の男性の誘いはきっぱりとかわせるのに、よりによってなぜそこに行く・・・。なんというか、年齢の割に無邪気で擦れてないんだけどそこが困っちゃう。