スペインのマドリードで一人暮らしをしていたジュリエッタ(エマ・スアレス)は、街角で若い女性から声を掛けられる。十数年ぶりに会ったその女性は、ずっと行方が分からなくなっている娘アンティアをスイスのコモ湖近辺で見かけたというのだ。ショックを受けたジュリエッタは昔住んでいたアパートに引っ越し、娘に当てて自分の人生を綴り始める。監督はペドロ・アルモドバル。
 全編にわたってジュリエッタの一人語り・彼女の主観で進み、他人の視線は入ってこない。もし他の人の目からジュリエッタの人生を見たら、どんなふうかなとふと考えた。ジュリエッタにはジュリエッタとしての見方、感じ方しかできず、それゆえに取り返しがつかないこともある。ジュリエッタは気付かないが、この時夫は、娘は、こういう風に思っていたんじゃないかということが、様々な部分で垣間見られ、ジュリエッタが気づかないだけにもどかしい。彼女がそれに気づくときは、いつも手遅れだ。彼女の人生は、取り返しのつかないことに対する罪悪感で動かされているように思った。
 その人の人生の中で、何が後々まで影響を残すことになるのかは、本当に後々になってみないとわからないことだろう。そこが、影響の源を探るというミステリにもなっており、また怖さにもなっていた。原因がわかったとしても、それが過去にある以上どうしようもない。自分の人生のある部分が、他人にどういう影響を与えるかわからないという怖さでもある。ジュリエッタは娘がいなくなってからずっと、その怖さに悩まされていたのだろう。娘が自分から離れていこうとした理由にも、当時のジュリエッタは全く気付かなかった。後々考えると、ああそういうことだったんだと腑に落ちるが、もう遅いというところが実に辛い。
 ただ、自分ではコントロールできないことは諦めるしかないのかもしれないが、ジュリエッタはずっと諦めずにいる。その執念が、周囲の人たちを繋ぎとめるきっかけにもなりえるのだ。ほんのりと希望を匂わせ、すぱっとエンドロールに入る終わり方がいい。こういう題字の出方好きだな!
 ジュリエッタの夫の元で働く家政婦がインパクトを残す。しっかりしていて仕事の面では頼りになりそうだが、ジュリエッタとはお互いに疎ましく思っている雰囲気がある。仕事をしていて家庭に留まらないジュリエッタは、家政婦にとっては“女の仕事”をしていないということになるのだろう。思わせぶりな言葉はジュリエッタへの呪いのようでもあった。