円城塔著
オーバー・チューリング・システム(OTC)が現実世界の解像度を上げ続け、人類が“こちら側”へと退転した世界。特化採掘大隊の朝戸と支援ロボット・アラクネは、OTCの構成物質(スマート・マテリアル)を入手するため、現実宇宙へ向かう。一方、ふたつの宇宙で起こった連続殺人事件を刑事クラビトは捜査していた。
著者の『プロローグ』で発生したシステムの行き着く果てを描いたような本作。物語とは何か、文字による記述というシステムはどこへ行くのか?書けば「そうこうこと」になり延々と書換えられるという文章の性質そのものを小説内の設定として組み込むという試みなのかなと思ったが、これは意外と落としどころが難しい設定なんだなとも。何しろ何度でも書換えられるので、様々な方向から様々な都合で世界が改変されてしまう。そもそも小説とはそういうものだが、それをいかにして「小説」というフォーマットに落とし込んでいくのか。はたまた、フォーマットに落とし込むことにどういう意義があるのか、という小説と言う形態の広がり方について考えさせられる。読む側以上に、書く側にとって、なぜ小説と言う形態なのか、という課題は重いのだろう。