ピエール・ルメートル著、橘明美訳
 カミーユ・ヴェルーヴェン警部の恋人アンナが、強盗事件に巻き込まれ重傷を負った。カミーユは強引に事件を担当し、犯人を捜す。しかし犯人は執拗にアンナを狙ってくる。
 『悲しみのイレーヌ』『その女アレックス』(作中時系列順)に続く、カミーユ・ヴェルーヴェン警部三部作完結編。とうとうカミーユの名前が題名にあがるわけだが、題名が内容そのもので、もう初っ端から傷だらけである。1ページ目で、あっこれまずいやつ・・・だめだめ!と顔を覆いたくなる不吉さ。カミーユの行動も、自分で自分を泥沼に追い込んでいくような、理性的に考えたら選択ミスの連続のように思える。しかし、その非合理さ、理屈に合わなさが、彼のアンヌに対する思い、彼が抱える問題故のものなのだということもよくわかる。冷静で理知的なカミーユだが、事件が自分のことになった途端、平静ではいられなくなってしまうのだ。その傷だらけになりつつ地獄へ突っ込んでいく感じ、そしてどうしてもそうなってしまうという抗えなさが、過去2作よりも作品のノワール風味を強めている。また過去2作と同様に、ある地点でがらっと風景が変わって見える、ミステリのけれん味たっぷりな作品なのだが、その見えてくる景色が辛い。当事者も辛いことがわかっているので、大変荒涼としてやりきれない気持ちになる。とても面白いのでシリーズ続編を望む声も大きいようだが、私はカミーユの物語はこれで終わるのがふさわしいと思う。もう彼は全部やりつくしたのだろう。