嵐の海に投げ出された1人の男は、無人島に辿りつく。真水と果実でなんとか生き延び、いかだを作って島からの脱出を試みるが、何度試しても奇妙な力で島に引き戻されてしまう。ある日、男の前に1人の女が現れる。監督・原作・脚本はマイケル・デュドク・ドゥ・ビット。第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門特別賞受賞作品。
 スタジオジブリ作品との触れ込みで、プロデューサーは鈴木敏夫、高畑勲がアーティスティックプロデューサーとしてシナリオ・絵コンテのアドバイスをしたそうだが、いわゆる「ジブリ作品」とはかなり色合いが異なる。ジブリはプロデュース的な立ち位置で、ドゥ・ビット監督の作家性の強い作品になっている。監督が2000年に発表した短編『岸辺のふたり』には号泣したものだが、本作はそれともまた印象が異なる。
 絵の地というか、目の細かな画用紙に描いたような質感で、色合いもとても美しい。無人島が舞台なので海の描写は当然多いのだが、南の海の色で、水の質量感もすごくいいなと思った。また、セリフが一切ないのだが、キャラクターの演技が的確なので、物語の理解には支障ないと思う(小さいお子さんには難しいかもしれないが)。ちょっとした仕草まで目が行き届いていると思う。また、男にまとわりつく蟹たちの演技が素晴らしい。ユーモラスで可愛らしく、かといってぎりぎり擬人化には至らずあくまで「蟹」。作品のアクセント、息抜き部分になっていた。
 神話や昔話のような物語で、異なる存在との遭遇と交じり合いを描かれる。そこで新しい生活が生まれていき、それはそれで幸せだろう。しかし男にとっては、それは同時に島に幽閉される、絡め取られるということでもある。男は結構ガッツがあって何度もいかだで漕ぎ出すのだが、島は何としても彼を離してくれない。男に対する執着(まあ愛は愛なのかもしれないが)が少々怖くもあった。
 恐いと言えば、後半で起こるある事件は、生々しく恐い。抗いようのない事態には、どうすることもできないのだ。そこからまた日常を取り戻していく様はたくましいのだが。