(若干ネタバレです)高層ビルにオフィスを構える総合商社ジョーンズ&サンは、ホー会長(チョウ・ユンファ)と敏腕女社長チャン(シルヴィア・チャン)の元邁進し続け、とうとう株式公開を目前に控えることに。ホーとチャンは実は愛人同士だが社内では公然の秘密。新入社員のシアンとケイケイは上司や先輩にしごかれ仕事を学んでいく。副社長でチャンとは愛人関係のあるデイヴィッドは、野心に燃え会社の金に手を出していた。それを隠す為に経理担当のソフィに近づくが。監督はジョニー・トー。
 まさかジョニー・トーの新作がミュージカル仕立てだとは。正直歌唱に関してはおぼつかないところもあるし、楽曲が冴えわたっているわけでもない。華麗なダンスがあるわけでもないのだが、本格的なミュージカルではないところが却って魅力になっていると思う。セットも舞台美術を意識したもので、全ての舞台が一つのフロアにあるような見せ方。パイプっぽい素材を多用して抽象化寄りにしたセットや画面の高低構造等、なんとなく幾原邦彦監督のアニメーション作品を連想した。ジョニー・トーが『輪るピングドラム』や『ユリ熊嵐』を見たということはまずないと思うけど。
 邦題には「華麗なる」とあるが、むしろ生臭い。確かに一見華やかだが、一皮むくと社長にしろ社員にしろ、自分の野心と欲望でギラギラしている。とにかく働き上手いことやってのし上がるぞ!という鼻息が荒いのだ。私はこういうギラギラした上昇志向がちょっと苦手なので、正直辟易とした。見ている分には楽しいと言えば楽しいけど、だんだんギラつきにあてられて心が疲弊していくんだよね・・・。映画の良しあしとは関係なく、あーこれは私にフィットする世界ではないわ・・・という気分になる。時代背景はサブプライムショック前後なのだが、ジョニー・トーの2011年の監督作品『奪命金』もまさにサブプライムショックを背景にしていた。投資の麻薬性、ちょっと欲を出したところ自分ではどうしようもないものによってカオス化していく、というシチュエーションが監督の琴線に触れるのだろうか。短時間で転落するからドラマ化しやすいということかもしれないけど。
 チャンは清廉潔白な善人というわけではなく、色々画策し、長年協力してきたパートナーを裏切りそうな動きも見せる。とは言え、彼女は本作の登場人物の中で、唯一かっこよく見えた。彼女には彼女なりのモラルがあり、最後まで筋は通すのだ。最後、エレベーターから出ていく姿はむしろ清々しい。自覚せずに他人を(自業自得とは言え)破滅に追い込んでしますシアンや、結局実家の傀儡に見えてしまうケイケイは、自分の筋みたいなものがまだ出来上がっていないのだろう。とは言え、最後に「君の勝ちだ」と言われる人は・・・。結局金の出元が一番強いということか。