マキシーン・ホン・キングストン著、藤本和子訳
《村上柴田翻訳堂》シリーズ。移民、あるいは不法移民としてアメリカにやってきた中国人たち。鉄道建設や鉱山等で労働力を提供し、アメリカ繁栄の礎を築いた彼らの末裔である著者が紡ぐ、彼らの記憶。当時アメリカ人が中国人を「チャイナメン」だと侮蔑的なニュアンスをはらむそうだが、著者は「チャイナ・マン」と記載する。移民してきた中国人たちは、時間と世代を重ねるごとに中国人からは遠のき、かといってアメリカ人としても違和感を持ち続ける。著者はそこにコンプレックスや負い目ではなく、「チャイナ・マン」という新しい立ち位置を与える。アメリカではノンフィクションの括りに入れられているそうなのだが、どちらかというと「お話」的な、語りとしての力が強い。人の口が語る時のように、必ずしも起承転結や伏線はないし話題がとりとめもなく移ったり、ファンタジーの領域に突入するようにも見えるが、そこが却って、移民たちの背景にある中国の歴史・神話まで感じさせる。自分の両親や叔父、従兄など身近な人たちの話なのに壮大、かつ散漫な広がりを見せる。