東京湾の地下を通る、東京アクアトンネルが崩落する事故が発生した。首相官邸では緊急会議が開かれ、内閣官房副長官・矢口蘭堂(長谷川博己)は海中に巨大生物が存在する可能性を提示するが、一笑に付される。しかし、実際に海上に正体不明の生物が出現し、ネット上で動画も確認された。生物は鎌倉に上陸し、街を破壊しつつ移動し続ける。政府の緊急対策本部は自衛隊に防衛出動命令を出すが、「ゴジラ」と名付けられたその生物に、既存の兵器は通用しなかった。監督は樋口真嗣、総監督・脚本は庵野秀明。
 あんまり期待せずに見たら、いやー面白い!私はゴジラシリーズには疎い(初代ゴジラと、ギャレス・エドワーズ監督のハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』(2014)しかちゃんと見たことがないのだが、ゴジラを全く見たことがない人でも大丈夫、と言うかむしろその方が新鮮に楽しめるのではないかと思う(初代に対するオマージュは諸々盛り込んでいるし伊福部昭による音楽をまんま再現したりしているが、それを知らなくても問題ない)。
 冒頭の30分くらい、かなりテンポが速く畳み掛けるように物事が進んで行き、引きが強い。やっていることは官邸その他で行われる会議に次ぐ会議なのだが、妙に面白く引き込まれた。実際に何らかの大災害が起きたら、政府内の動きはこういう風になるんじゃないかなというシュミレーション(と同時にこうであれという希望)的な面白さがあった。台詞の分量がやたらと多く、テロップによる文字情報も多いので、ここで集中力が途切れてしまう人もいるかもしれないが。序盤のテンポやカット数の多さはアニメっぽいなぁという印象も受けた。自分の中で、アニメを見ている時のスイッチと実写映画を見ている時のスイッチが頻繁に切り替わっている感じだった。
 本作が成功している要因は、「やりたい、かつできる」ことのみやった、ということではないかと思う。こういった災害もの、パニックものの映画では、市井の人々のドラマや、中心となる登場人物の恋愛や家族愛、友情が描かれがちだ。本作にはそういう要素は希薄(友情はなくはないが、どちらかというと仕事を介した連帯に近いと思う)。出来なくはなかっただろうが、それをやると冗長になる、労力は他に割きたい、ということではないか。見せるものの優先順位がすごくはっきりしていると思う。いざ大災害に直面した時に必要なのは、愛や絆ではなくとにかく実務能力だという(愛や絆が必要なのは当面切り抜けた後なんだろうなぁ)ことを臆面もなく描くあたりが、最近の日本の大作映画の中では珍しいのではないか。
 なお、出演者はいい。特に、数十秒くらいしか露出がないくらいの端役(というわけではないがとにかく搭乗時間が短い)が皆非常にいい顔つきの人を揃えている。主演の長谷川や石原さとみはつるっとしていて生活感がないのだが、周囲の人たち、特に中高年の顔の造形や背格好の説得力がそれを補っている。大ベテラン役者の顔芸が見られるという点でも面白かった。