ジェイムズ・エルロイ著、佐々田雅子訳
1941年のアメリカ、LA。日系人一家が惨殺される事件が起きた。日系人鑑識官のヒデオ・アシダは捜査に関わるが、日本による真珠湾攻撃が起き、日系人の立場は悪化していく。LA市警のダドリー・スミスは上層部の意図をくみ、戦時下でも捜査を続け公正さをアピールしつつ、殺人事件は日系人か変態の犯行という「真相」に落とし込もうとする。次期市警候補のウィリアム・パーカーは、アシダに接近しスミスの失脚を狙う。しかしスミスもまたアシダに接近していた。殺人事件の捜査、そして市警内のポジション争いが本筋にあるはずなのだが、読んでいるうちにだんだん何の話かわからなくなってくる。個々の登場人物の欲望や情念が、徐々に暴走していき、正義も真相も二の次になっていくように見えるのだ。真相を追うアシダやパーカーもまた、世間からの圧力や自分自身の中の暴力への衝動から逃れる為、正義を曲げざるを得なくなっていく。しかし、最初から正義も真相もおいてけぼりな話でもある。正義も真相も二の次にしているのは、警察の上部にいるもの、アメリカという国そのものだからだ。政府は世論をコントロールし戦意高揚につながるよう、真相をでっちあげようとする。著者の近年の作品では、度々「偽史」としてのアメリカの側面が描かれるが、本作から始まる新シリーズもそういう様相を見せるのだろうか。本作は著者の「LA四部作」の前日譚にあたる新作シリーズで、四部作の登場人物が若き日の姿で登場する。ダドリー・スミスの怪物性が本作で既に発揮されているところが恐ろしい。人たらしでありつつ非情、しかしもろさもある。完結すると一大クロニクルになるのだろう。どういう形で『ブラック・ダリア』まで辿りつくのか。無事完結することを願う。