アイルランドの小さな町で、母、姉ローズ(フィオナ・グラスコット)と暮らすエイリシュ(シアーシャ・ローナン)は、ローズの計らいでアメリカへ渡ることになった。単身、ニューヨークのブルックリンで暮らし始め、地元の神父の紹介で百貨店の売り子として働くことになる。監督はジョン・クローリー。原作はコルフ・トビーンの同名小説。脚本は『17歳の肖像』や『わたしに会うまでの1600キロ』のニック・ホーンビィだが、この人は女性が主人公の脚本を書くのが上手いのかもなぁ。
 色合いのとても美しい作品だった。アイルランドと言えば緑色だが、この緑色の効かせ方が気が利いている。アイリシュにとって、緑は故郷の色だ。最初は緑色のコートを着ているが、途中で赤に変わるのが印象に残った。そして最後、緑色の使い方には、彼女にとっての「故郷」がどういうものになったのかが端的に現れていたように思う。使われている緑色の種類、グラデーションも美しかった。
 エイリシュは右も左もわからず、1人きりで見知らぬ環境で生きていかねばならない。が、折々で少しずつ彼女を助けてくれる人たち、特に女性たちがいる。彼女らの姿が、個々の人間としてくっきりと描かれているところがいい。姉ローズを筆頭に、船で同室になった女性や、百貨店の上司、寮母や同寮の女性たち。彼女ら1人1人は決して突出した人たちではないし、ローズ以外はエイリシュと非常に親しいというわけでもない。それでも、彼女らには「後輩」をちょっと手助けしてやろうという気概、あるいは義務感みたいなものがある。上京者や移民者の多い町故、自分達が通った道だからという人もいるだろう。だからエイリシュもまた、「後輩」に同じようなアドバイスが出来るようになったのだし、エイリシュにアドバイスされた人も「後輩」に同じことをするのだろう。
 エイリシュはニューヨークに渡ることを選んだ。姉ローズは、母を思いやってではあるが故郷に残ることを選んだ。生きていくことは選択を続けることだとつくづく思った。正しい選択かどうかより(そもそもどの時点をもって正しい選択と判断できるのか)、自分がなぜそちらを選択したのか、その選択が自分の意思によるものなのか、自分が納得したのかどうかという所が大事なのかもしれない。エイリシュは終盤、ある大きな選択を迫られるが、その時に蘇る「なぜ」の部分が強烈だった。
 また、エイリシュは自分より美人で優秀な姉(ローズは有能な経理担当として働いている)がニューヨークへ渡るべきだったのでは、姉は自分と母の犠牲になったのではと気に病む。が、故郷に残ったローズの人生が不幸だということにはならないだろう。ローズは妹と母を守ることを選んだ。そのことに彼女は納得していたし、満足していたのではないかと思う。