ベアテ・シロタ・ゴードン著、平岡麻紀子訳
第二次世界大戦後の日本、日本国憲法GHQ草案の作成に22歳で参加した著者の自伝。著者のことが一般的に知られたのはごく最近だと思うが、草案作成後にスタッフ全員に緘口令が布かれており、近年まで公表することができなかったからだそうだ。著者はオーストリアで生まれ、ピアニストだった父親が日本の音楽学校に招かれたのに伴い、日本で育った。幼い頃から日本で育った為に、日本語は堪能で日本文化への理解も深く、人材不足だった終戦直後に、GHQに採用されたそうだ。当時、どういう風に草稿作りが進められていたのか、どういう人たちが携わっていたのか、時代の空気感(アメリカから見た日本のものではあるが)も伝わり面白い。少なくとも草稿を作ったスタッフたちは、日本一国がどうこうというよりも、理想としての憲法を作ろうとして奔走していたように思う(アメリカによる「宣伝」という側面は当然あるのだが)。日本国憲法はGHQからの押しつけだと考える人もいるだろうが、こと人権に関しては、この人たちが従事していなかったらもっと立ち遅れていたのではないだろうか。特に男女平等に関する事項は、著者のおかげで成立した部分も大きいと思う。著者は草案を練っていた当時から、日本では個人の人権という概念がなかなか理解されない、定着しないのではと危惧し、草案段階で出来るだけ人権に関する条項を盛り込んだそうだが、それ正解だったなと思う。いまだに定着しているのか不安な所もあるもんな・・・。むしろ、GHQがこれだけ強引に押し切っても現状こんなものかというがっかり感すらある。しかも現在、更に後退しようとしていて著者が生きていたら何と言っただろうかと考えてしまう。ただ、著者は当時としては先進的な考え方の持ち主だったが、それでも時代や環境による限界はある。家族に関する価値観には古さが否めないし、本作後半で取り上げられている海外文化のアメリカへの紹介事業等は、本来の文脈と切り離した海外の伝統芸能の紹介は果たしてベストなのか気になった。