長嶋有著
とある2階建てアパートの1室。この部屋には、1人暮らしの学生も、老夫婦も、幼い子供を持つ夫婦も、単身赴任の会社員も、傷心の女性も、怪しげな男も暮らしていた。1960年代から2000年代に渡る歴代の入居者たちの日常を、アパートの一室を舞台にコラージュしていく。本作、表紙をめくって本編を読み始めてから、あれ?と思った。題字と目次ページがない。読み進んで行くと、こうきたか!と思わず笑ってしまった。変に凝った造本になってしまっているが、納得した。最近の著者の作品を読むと、日常のささいな行動の描写がより具体的、丹念になっており、大きな出来事は、一見全然起きない。が、心にずっとひっかかっているようなことは、案外どうでもいいようなことだったりする。また、大きなことが起きた時には気付かず、後になってからあれがそうだったかと思い当たる(ないしはそれすら思い出さない)ということは多々あると思う。こういう、その時はわからない、流してしまようなことを一つ一つ拾っていく方向が強まっている。そういうものの積み重ねで、人の人生は出来上がっていくのだろう。歴代入居者同士が行き会うことはないが、彼らの人生はここを出ても続いていくし、アパートがなくなっても続く(だろう)ということが、何となく頼もしい。