司会者リー・ゲイツ(ジョージ・クルーニー)の軽いトークで視聴率を稼ぐ、生放送の財テク情報番組「マネー・モンスター」。その収録現場に見慣れない男が入り込み、拳銃と爆弾を使って、ゲイツを人質に番組をジャック。その犯人・カイル(ジャック・オコンネル)は「マネー・モンスター」が発信した情報により、投資に失敗して全財産を失ったと言うのだ。ゲイツを解放させるために、ディレクターのフェン(ジュリア・ロバーツ)は株価暴落の真相を探り始める。監督はジョディ・フォスター。
 フォスター監督作はすごく生真面目、あるいは小ぢんまりとした佳作という印象があったのだが、本作は娯楽作品の王道(ちょっと懐かしいくらい)の味わいを保ちつつ、現代の金融システムに対する疑念を提示しており、とてもスピード感があって面白かった。99分というコンパクトさも素晴らしい。登場人物全員が表層的ではなく、多面的に描かれているところが良かった。言動がチャラくて軽い(しかもちょっと昔のチャラさ・・・)、少々ヘタレなゲイツは、追い込まれるとスイッチが入ってスター司会者の本領を発揮してくるし、カイルに対する思いやりも見せるようになる。フェンの迅速な行動、決断の的確さはとてもかっこいい。フェンとゲイツとの関係が男女関係ない「同僚」という感じなところも良かった。「金曜の夜の過ごし方」に対する見解で、2人の価値観、人柄がわかりやすく対比される、しかもそれがちゃんと伏線として回収されているというのも、何と言うかお得な感じ。「度胸だ」で乗り切るカメラマンを筆頭に、端役もキャラが立っている。
 また本作、特に女性達の造形が単純ではなく、視聴者を唖然とさせるカイルの恋人にしろ、大手企業の広報担当にしろ、人物像に手応えがあった。娯楽映画としてはストレートだが、ちょっとしたところが通り一遍ではなく、ちゃんと手を入れているなという丁寧な感じがする。また、部下を「Girl」呼ばわりするなど、一部の男性たちの嫌な所をちらっと見せているところも、なるほど表面はイケメンだけどこういう人か、と思わせる上手い演出だったと思う。
 最初は自分達が窮地から脱するために、有名企業の株価暴落の理由を調べ始めたフェンとゲイツだが、期せずしてことの真相に迫ってしまう。フェンもゲイツも段々本気になっていき、自分達の為だけではなく、真相を握る人物に落とし前を付けさせる為、「これはおかしい」と糾弾するために奔走し始める。カイルをコントロールしつつ、警察に介入させすぎず、真相を隠蔽しようとする勢力を戦うという、三重の闘いに発展していく、しかも猛スピードで、という密度の高さ。フォスター監督、やるなー!と唸った。
 面白い娯楽作だが、苦みも強い。システムを作った者、システムを掌握しているものが一番強いのだったら、逆転の見込みは限りなく低い。そもそも、倫理感を持たない者に倫理を説いてものれんに腕押し、話が通じないのだ。カイルが求めたものは大きなものではなく、人間として誠実であってくれということでもあるのだが、それを求めるのが一番難しくなってしまうというのが、なんともやりきれない。放送ジャックを見ている視聴者が一見心配しつつも面白半分、熱狂も興味が覚めるのもあっという間、という所も、おかしくもうっすらと怖い。