三代続いた老舗漢方薬店をたたみ、団地に越してきた山下ヒナ子(藤山直美)と清治(岸辺一徳)夫妻。ヒナ子がスーパーでバイトを始める一方で、昼間から裏山で散歩ばかりしている清治を見た団地の住民たちは、あることないこと噂する。ところがある日から、清治の姿が見かけられなくなり、殺人事件ではないかという噂が過熱していく。監督・脚本は坂本順治。
 阪本監督、突き抜けたなー!なかなか勇気がないとこっちの方向に振れないだろうなということをしれっとやっている。狭いコミュニティ内の人間関係のいやらしさを描く日常ものかと思ったら、明後日の方向に飛躍していった。わけわからないという人もいるだろうけど、私はこれ好きだなぁ。見終わった直後より、何日も経ってからじわじわと良さがこみ上げてきた。私は多分、本作のようにジャンルやお約束事をひょいと飛び越えていく映画が好きなんだろうな。
 題名の通り、本作の舞台は団地だ。団地って、もう「終わっていく」場所になっちゃったんだなと実感する。作中でも言及されているように空き室が増え、入居者は高齢者ばかり。若者が積極的に住みたい場所では最早ない。未来が感じられないのだ。そういう場所に、ヒナ子と清治はわざわざ引っ越してくる。徐々に明らかになるが、彼らはとある事情により、ある意味「終わってしまった」のだ。客観的にはそんなことなくても、2人の心の中では、やはり何かが終わってしまい、自分達もまた静かに終わりを迎えたい、あるいはヒナ子が言うように「おさらばする」つもりだったのだろう。
 本作はユーモラスでついつい笑ってしまう部分が多々ある。にもかかわらず、ふとした瞬間に深い悲しみや寂寥感が顔を覗かせる。ヒナ子夫妻も団地も共に「終わっていく」感覚をまとっているからだろう。「おさらばする」しか逃れる方法がない(もしかしたらそれでも逃れられない)苦しさや悲しさがあるのだ。裏山で清治が出会う中学生も、そういう苦しさを抱えている。彼のその後がとても気になった。
 藤山と岸辺の息が合っていて、2人がやりとりしているだけで妙に面白い。いわゆる「リアルな映画」の演技とはちょっとずらした、すこしだけ宙に浮いている感じが、逆に手応えを感じる。