ビル清掃のバイトをしている岡田(濱田岳)は、職場の先輩・安藤(ムロツヨシ)から片思い相手のカフェ店員・ユカ(佐津河愛美)との仲をとりもってくれと頼まれる。そのカフェで岡田は、高校の同級生・森田(森田剛)を見かけた。ユカは頻繁に来店している森田が、自分のストーカーではないかと怯えていた。原作は古谷実の同名漫画。監督・脚本は吉田恵輔。
 タイトルとオープニングのクレジットの出方に、このタイミングでか!こうきたか!と唸らせられた。ここまで思い切った構成にした所に、監督の構成への自信が見える。実際、これによってこの話がどういう形のものかがより鮮明になる。オフビートなコメディから一転、ホラーめいた緊張感満ちた世界になるのだが、この2つは表裏一体であり、裏と表は簡単に入れ替わる。
 とはいえ、不穏な空気は前半も漂っている。森田は登場するなり、この人に近づきたくないぞという空気を醸し出す。細くて栄養の足りていなさそうな、どこか貧相さを感じさせる風貌(森田剛はよく役を作り込んでいると思う)も一因なのだろうが、動いたり話したりすると、その不穏さはよりはっきりとする。彼は人に話しかけられれば返事はするが、そのタイミングや内容はどこかずれている。また言っていることをすぐに翻したりもするが、自分ではそれを絶対認めない。噛みあったコミュニケーションが成立しないのだ。演じる森田剛がとてもいい。ごく自然な「ヤバい人」っぽさちゃんと出ている。会話のテンポのはずし方や、暴力が発動する前の“ため”のなさ、反応の速さには目を引きつけられた。やっぱり体がよく動く役者は強いなぁ。
後半のバイオレンスは強烈で、同時期に公開されている日本映画『ディストラクション・ベイビーズ』(真利子哲也 監督)を思いだした。ただ、理由背景などなくただ「暴力」がそこにある『ディストラクション~』とは異なり、本作の森田には、シリアルキラー化するまでの理由づけがされている。より現代的、というか時代の空気を感じるのは『ディストラクション~』だと思うが、どちらがよりいいということはないだろう。森田は理解しがたい存在ではある。しかし、岡田や安藤のような人たちと全く断絶しているわけではない。困難ではあるが、共感できなくても理解の可能性は残しておきたかったという姿勢を感じた。