平田オリザ著
”まことに小さな国が、衰退期をむかえようとしている。”という、司馬遼太郎『坂の上の雲』のパロディ文から始まる本著。著者が関わった地方自治体や大学のプロジェクトを切り口として、日本のこれからの社会のあり方を探る。とはいえ、著者はもう日本がいわゆる「経済成長」するとは考えていない。また、もはや工業国ではなく、アジア一の先進国でもない(なくなる)と考えている。つまり、題名の通り下り坂をそろそろと下る状態なのだと言う。物質的にはこれ以上豊かになるとは考えにくい、そんな中で著者が提案するのはソフト面への注力。つまり魅力的な地域性と人材の育成だ。そのために何が必要かと言うと文化。劇作家である著者が文化が重要と言うのは当然ではあるし、なぜ文化かという主張は一見理想論的だが、内容を読むと納得する。若者が地方を離れるのはそこに若者を引き留める魅力がない、魅力がないのはセンスがないから、センスを磨くには文化が必要(この点で、小豆島や豊岡の町おこしはとても興味深かった)だという実も蓋もない論旨だが、スベっている町おこしを見ると説得力を感じざるを得ない。そもそも地域による文化格差では東京が圧倒的に有利だ。著者は子育て中の親や生活保護を受けている人が映画や演劇やコンサートに行っても非難されない、後ろめたく感じない社会にしたいと言う。そういう世の中だと(文化という側面だけでなく)息苦しくなくて生きやすそうだ。