売れないデスメタルバンドのボーカリスト・田村永吉(松田龍平)は、同棲相手の由佳(前田敦子)が妊娠したことをきっかけに、結婚報告の為、瀬戸内海の故郷に7年ぶりに帰省。父・治(柄本明)、母・春子(もたいまさこ)、そして故郷を離れたはずがなぜか帰ってきていた弟の浩二(千葉雄大)と久しぶりに対面する。しかし治が末期がんに侵されているいることがわかる。監督・脚本は沖田修一。
 沖田監督、本当に手堅く、かつ毎回何かしら前進しているいい監督になったなぁとしみじみとした。以前は構成に少々中だるみを感じたが、それもなくなってきている。ストーリーテリングのペースが速いわけではなく、むしろのんびりとしているのだが、省略する所の思い切りがいい。普通だったらエピソードとして使いそうな所をあっさり省略し、その前のフリ部分や後の余韻で経緯が感じられる。また、絵的にも、とあるシーンで柄本のつま先だけが画面の隅から出ているのだが、このつま先だけでどういう気分なのかわかってぐっとくる。こういうさらっとした、見せすぎない・説明しすぎない見せ方が上手くなったんだろうなぁ。
 父親が末期がんだと知った永吉が、わかってはいたけれど親が本当に死ぬとなるとどうすればいいかわからない、という意味合いの言葉をこぼす。これ本当にそうだなぁと心に刺さった。自分がいい大人になっていたとしても、親が自分より弱っており世話が必要である、親が自分より先に死ぬということに、いちいちびっくりして、動揺してしまう。永吉もおたおたするばかりで、実際的な役にはあまり立たない。そんな彼でも、ふと気づくと父親に対するケアの手際が良くなっているということに、なんだかしんみりとした。心情はともかく、生活しているうちにだんだんそうなっていくのかと。
 永吉は治とさほど仲が良かったわけでもないし、治も永吉を目立って可愛がっていたわけでもなさそうだ。しかし浜辺での会話にはほろりとする。この時の治は少々呆けも入り、永吉が中学生だった頃に戻ってしまっている。つまり、中学生の永吉に話しかけるのだ。永吉にとっては後追いで親の真意がわかることになる。しかし永吉は最早中学生ではなく、治の言葉がうれしくても取り返しがつかないことではある。同時に、当時の永吉には、治の気持ちはおそらくわからなかっただろう。そのすれ違いが、暖かくも非常に痛切なシーンだった。